沢村拓

童話的な小噺 ―パート1―

 昔々、ある小さな国に目の見えない王様がいました。
その国はとても平和で、今まで一度も戦争をしたことがありません。
国の人たちも、歌と踊りが大好きで陽気な人ばかりが集まっていました。
なので、王様の目が見えなくても周りの人たちが手伝ってくれます。
王様は今まで何の不自由もなく、政治をすることが出来ました。
嵐で流されてしまった橋を直したり、地震で壊れてしまった家を建ててあげたりしました。
王様は国の人たちからとても慕われていました。
 ある日の午後です。太陽が真上で大きく光っていました。
王様は家来と一緒に馬に乗って、散歩に出かけました。
そのとき、一人の杖をついた老人が王様の前に現れました。王様は不思議に思って、老人に尋ねました。
 「あなたはどうして杖をついているのですか?」
 老人は「私は目がみえないのです。それにあなたと違ってお付の者もいないので。
私は杖を目の代わりにしているのです」と答えました。
 王様は気の毒に思って、「どうぞ、私の城に来てください」と言いました。
家来たちはみな反対しました。
しかし、王様は「困っている人を助けるのが私の役目です」といって、聞きませんでした。
老人は深く頭を下げて、王様の後ろについて、城に行きました。
 それから数日たったころ、王様の身に不思議なことが起こりました。
王様は朝起きると、いつも家来に体を支えてもらって朝ごはんを食べに行きます。
ですが、その家来がいつまでたっても来ないのです。
王様はあまりにもお腹が空いたので、朝ごはんを食べるテーブルまで自力で行くことにしました。
その途中で王様はおかしな臭いに気がつきました。さらにパチパチという音も聞こえます。
すると、家来の人たちがすぐに現れて、「王様、こっちです」といって王様の手を引っ張っていきます。
王様は何が起こっているのかわかりません。ただ、手を引かれていくだけです。
そのとき、王様は細くて固い何かに頭をぶつけて、気を失ってしまいました。
 王様は目が覚めたとき、冷たくて重い場所にいました。体が全然動きません。
王様は初めて怖いという感情を持ちました。そして、王様は息ができないことに気がつきました。
さらに何か冷たいものが口を通して体に入っていくのがよくわかります。
王様はとうとう息ができなくなってしまいました。

 王様の城は建て直されることになりました。
さらには王様も王様の家来も全員いなくなってしまったので、国は困ったことになっていました。
国の人たちが色々な手段で次の王様を決めようとしましたが、
ある大きなことをしたので、次の王様は杖をもった老人に決まりました。その杖は黒く煤けていました。
 老人は王様になるときこういいました。
「前の王様の冥福をお祈りしたい」と。

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