第参者(魅闇美)

あんまんHoney

溜息を吐いた、息が白かった
目の前が霞んでいる…それは今吐いた息のせいだということにした
夜空に消えてく自分の息、静寂の中震える情けない吐息
またひとつ盛大な溜息を吐く、そうすれば少しは楽になるかと思ったから
胸の中に溜まってあるわだかまりを吐き出せば少し楽になれる気がしたから
なのに何度も溜息を出しても心が痛むばかり
震える吐息は苛立ちのせいか、それとも…?
胸の痛みを空腹のせいにして強がった
空腹だと思うことで逃げたかっただけかもしれないけれど

空腹だからと向かった先はコンビニ
お腹に入れられたらなんだって良かった、何かで満たされたかった
店に入っておにぎりのコーナーでも行こうと思っていた
レジの前を素通り…するはずだったのだけれど、ふと目についたのは中華まん
お財布に優しいし今の季節恋しくなる食べ物だから、気づくとレジに立っていた
肉まんを頼んだけれど残念ながら品切れで、何にしようかと悩む
金髪のアルバイトがにこやかに笑いながらも眉がぴくぴく動いてる
焦って中華まんのケースに目を戻すと、小さな存在に視線が奪われた
独りでポツンと寂しい影、他の仲間は売られてしまったのだろう
なんだかこの子が欲しくなって、意を決して口を動かす

「あんまん1つ」

腕に抱えた温もり
袋から出すと温かい湯気が顔にかかった
ケースで独りぼっちだった君は同じく外に独りぼっちだった僕とふたりぼっち
誰もいない夜道でふたりの白い息だけが浮かぶ
冷たい僕のほっぺたと、温かい君のほっぺたをくっつけて熱を半分こ
触れ合ったその場所だけが温かくてくすぐったい
熱さを感じ始めてほっぺたからそっと離した
ふわふわのその子に唇を寄せる
1口目(ファーストキス)、具が出てきてなくて思わず笑った
次は思い切りかぶりつこうと思いそうすると、横からだらりとあんが出た
なかなか思い通りにはいかないもの、自分が不器用なせいかもしれないけれど
口いっぱいに広がった甘さ、思ったよりも甘い
けれど嫌じゃなくてむしろ好みだった
意外と美味しいんだなって思い始めたのにもうあとひと口分しかなくて
気づくのが遅かったんだね、全ては終りに近づいてから感じること
もう元に戻れない
僕にできることは君を笑顔で見送ることだけだった
大好きだった、その想いを噛みしめて、飲み込んで、消した

お腹が膨れたら痛みが少し和らいだ
空を仰げばまんまるお月さま
なんだか君のことを思い出して寂しくなった
ぽたぽた雨降り
でも大丈夫、白い雲は消えてきたから
きっとすぐ晴れるだろう

溜息で終わったから深呼吸して始めよう
新しい恋へ

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