夢を、見る。
際限の無い濃い灰色の空間に唯ひとり。
家や木さえ無い、ただ真直ぐに続く地平線が見える平原のような場所だ。
雲も無いというのに延々と白い雪が降り続け、地表に積もっていく…そんな夢だ。
最初の内は変わった夢だ、とだけ私は思った。
しかし夢は連日続いた。
雪は徐々に深くなり、その寒さも徐々に増していた。
私は眠る時間が長くなっていった。
何故こんな夢を見るのか、あの空間は何処なのか、好奇心がわいたのだ。
ある日、私は雪の上に文字を書いてみたが降り続ける白が直ぐに消してしまった。
ある日、私は叫んでみたが声は吸い込まれるように小さくなって消えてしまった。
雪は一時も止む事無く降り続けた。
私は、半日以上眠っているようになった。
ある時、誰かが「雪は嫌なものを隠していくようだ」と言っていたのを思い出した。
果たして誰の言葉だったのか、思い出せなかった。
ある時、私は夢から覚める度に何かを思い出せなくなっているような気がした。
それでも、何を思い出せないのか何を忘れたのかさえ、今となっては分からなかった。
まるで頭の中を空白が埋めていくようだ。
ある時、いつまでも同じ場所にいるのもつまらないと思い、私は西へ進むことにした。
風景は一向に変わる事は無かったが、私は只管歩き続ける事にした。
暫く歩き続けていると、遂に止む事のない雪と雪原のみの風景が変わった!
目の前に川の底まで見える澄んだ浅い川が現れたのだ!
そして、その川の対岸にくれなゐの着物を着た女性がひとり立っているのだ!
嗚呼、明日はあの女性に話しかけてみようか――――……
「―――で、終わりなのかよお前の祖父さんの妙な文章は」
「そーなんだよなー…で、この文章の最後の方を書いてる時は一日数時間くらいしか起きて無くて、
最後の一文を書いた翌日に部屋から消えちまったんだと」
うげ、と問いかけた少年が顔を顰めた。
「しかもな、消えちまった日以降、祖父さんの事は家族以外に誰も覚えてなかったらしい」
「何だよソレ――…まるで夢の中に消えちまったみたいに言うなよ」
「身内ではそう言われてるらしいぜ。さて、もう帰るか。もう夕暮だ…黄昏は妙なモンと出会うって昔からよく言うからな」
一人の少年が歩き出すと、もう一人も後を追う。その足元には黒い影が長く、二つ伸びていた。