ロマンキコウ

オンボロロボット

僕はロボット。風船売りロボット。8年間、風船売りをやっています。

「売り」といっても、本当に売るわけじゃありません。
ほしがっている人に、1個ずつ、風船をあげるのです。

ほしがる人はあまりいません。
多くの人はせわしなく、どたどた、ばたばた、見向きもせず、通り過ぎます。
近づく人もだいたいは、ぼこぼこ、どかどか、僕を意味なく、蹴り倒します。
道行く人が僕のことを、へらへら、げらげら、鉄屑見る目で、嘲り歩きます。
それでも僕は、風船売り続けます。倒されても、起ち上がります。

ある日の夕暮れ時、ひとりのこどもがやってきました。
どうやら風船がほしいようです。
赤い風船をあげました。今の太陽のような色です。
こどもは「ありがとう。」と笑って、遠くへと走っていきました。
それは1分にも満たない、ささいなできごとでした。

その日の夜の僕は、とてもとても上機嫌でした。
僕のあげた風船で、よろこんでくれる人を見ると、
なにもかもが、満たされた気持ちになるのです。
温かい何かが、僕の中の電気回路を駆け巡るのです。

夢のような時間にまた出会うために、
太陽のような笑顔を待ち焦がれながら、


僕は今日も、「風船売り」を続けるのです。

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