ロマンキコウ

俺と猫〜After one day〜

○月×日、大安吉日、俺は憂鬱だった。いや、今現在憂鬱なのだ。
そう、ユーウツ。
自分が何とかしなければならない、分かっているけれども、濁った感情が、 いつまでもいつまでも胸の辺りでわだかまって、俺はここを動けずにいるのだ。
暗い部屋、バラエティ番組が映るテレビの前で、 さなぎのようにうずくまる俺の背後に、だれかが音もなく舞い降りた。
ああ、またあいつか…
「やあやあ。ハロー。こんばんは。こんにちはーーー。」陽気な声がきこえた。
「なんだ化け猫、まだ成仏してなかったのか?」
「もおー。ひどいなー。いいかげん覚えてよぉー。 化け猫と動物霊ってのはぜんぜん、まったくちがうんだよぉ。しまいにゃスネちゃうぞ。」
「勝手に拗ねてろバカ。」
「スネてる奴に言われたかないなー。」
そのドラ猫はいつのまにか俺の眼前にちょこんと座っていた。
「どーしたのさー。しんきくさい顔しちゃってさ。そんなんじゃ明日元気に生きられないよ?」
猫の言葉に対して、俺は何も言わなかった。
「あら?無視?ムシですかー?あ!そうそうムシで思い出したけど、サトウムシって知ってる? ホラ、最近見かけなくなっちゃったけどさ、マンションとかにいたじゃん。 あの、なんかもう足しか残ってねェぜ的なあのクモみたいなのだよ。アレすごいよなぁ。 消しゴムかすに糸通しただけみたいじゃん。
・・・・・・・。あれ?ザトウムシだっけ?」
「・・・・・。」
「それじゃあ・・・・、そうだ!オモシロイ話しするからさぁ、ほらほら、顔上げなよぉ。」
「・・・・・。」
少しだけ間があった後、ドラ猫は再びしゃべり始めた。
「あのさ、あのさぁ。四丁目に魚屋さんがあるよねぇ。鈴木屋って言う名前のさ。 そこに店長の『自慢の息子』っていうのがいるのは知っているよね? そいつさ、めちゃくちゃ博識で『俺は親父の後を継ぐんだっ!』て言っちゃっているくせにさ 、こないだまでツナって鯖缶のことだと思ってたんだって!笑えるよねー。 あ!これ、ウソじゃないよ。中田さん家の猫の話だもん。あいつめちゃくちゃショージキだもん。」
「・・・・・。」
「どーしたんだよ。まだ顔が暗ーくなってんぞー。 ほら、もっといきいきしてよぉー。笑って、笑って。すまいる、すまいる!」
「・・・・・。」
 俺は猫の言葉に対して、何も言わなかった。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
淀んだ空気。それと灰色の沈黙が流れた。そして、俺の視界から猫の姿が消えた。
もうひとりにしてくれ。そう思ったと思う。
ごんっ。
鈍い音がして、ごろごろ、ごろごろ。缶詰がさっきまで猫が立っていた、 いや、座っていたところに転がってきた。ごろごろ、ごろごろ、ツナ缶だった。
缶はやがて失速し、ゆっくりと動きを止めた。俺の目の前で、止まった。
目に映る世界の外から、マグロをすり潰し、加工したもののにおいがした。
その後、再び陽気な声がして、あの猫が再び現れた。
「はぁー、やっぱツナ缶はいいなぁー。それうまいんだよ、サクラ印のツナ缶。 新鮮な風味、わずかな甘味、えっとそれからそれから・・・・・・・。 と・に・か・く、クチで表現できないほどうまいんだよぅ!」
「・・・・・。」
「おーい、聞こえてますよねー。生きてますよねー?」
「・・・・・。」
「『売り言葉に買い言葉』ってあーゆー事なんだよねぇ。 あんなに頭に血が上っているのに、よくクチから罵詈雑言が飛び出すもんだよねぇ。」
「!」
ぴくっ、と俺は顔を上げた。
「ただの夫婦の意見のくい違い。そして大喧嘩。子どもはどんな気持ちなんだろう。 まあ僕は猫だから、人間世界の事情なんて知ったこっちゃないけどね。 だけど君にとっては、もうただ事じゃないんでしょう?それで今、ものすごぅく悩んでいる。 どうしたらよいか、なにをしたらよいか、分かっているけど、それを実行に移す勇気がない。 そうだよね?」
これだ・・・。これが嫌なんだ。何にも知っていなさそうで、その実何もかも見透かしている。 俺のそんな心の内を、何から何まで悟った様子で猫はしゃべり続けた。 「そんなとこで塞ぎ込んでも、時間がもどるわけないし、過去をやり直せるわけないのにな。
そんなことをしている間に、ずんずかずんずか、時間は流れていっちゃうよ?」
「・・・・・・うるせぇ・・・。」
ボソッと口から漏れた言葉が暗い部屋に沈んだ・・・・・・・・。

「でも・・・。それって僕にしたらとてもうらやましいことなんだよ。」
猫が、落ち着いた声でそう言った。

「僕はね、ほかの猫よりものすごく長寿なんだ。いや、人間よりも長く生きられるかもしれない。 もしかしたら、寿命で死ぬこともないかもしれない。 だからね、『今を生きる』っていうのを、一かけらしか持ってないんだ。 その宝を友達の君が、十分に持って生きているという事がとてもうれしくて、誇らしいんだ。 お腹を空かして、道端で倒れていた僕にツナ缶をくれて、家で飼おうとして、親に怒られて、 それでも一生懸命に『飼いたい、世話は僕が全部やるから』ってお願いして、どうしてもだめっていわれても、 物置でこっそり、毎日世話をして僕に元気をくれた君といることがとても誇らしいんだ。」
「はははっ。それ、何年前の話だよ・・・・・。」
「えーと。ひぃ、ふぅ、みぃ、十四年まえかなぁ・・・・?」
「俺生まれてねえっての。」
一人は少し力なく、一匹は明るく笑った。猫の瞳は澄んでいて、それでいて、まっすぐだった。
そのあと、まじめな顔をして一匹は再び語り始めた。
「今の君は、濁った沼の浅瀬と深みの中間地点にいると思っている。深みに行ってしまえば、 もしかしたら絶対に沼から抜け出せなくなってしまうかもしれない。それをおそれているんだよね。 ちがう?」
まっすぐな瞳は、ただ、俺だけを見つめていた。
「それなら、自分の信じた道を進んでみなよ。君の眼には、進むべき道が、もう映っているはずだよ。」
「ウソつけ。」
「いやいや、ホントホント。」
「それなら、お前が人間でそんなことに出くわしたとしたら、 どーすんだよ。」
少し考えているような素振りを見せた後、猫は笑顔でとてもはっきりした声で、こう答えた。

―悩んで、悩んで、その後走り出すだろうな。答えを見つけに―

「まったく、お前は何年たっても中坊みてーだな。」
そう言いながら、俺はツナ缶を手にとって立ち上がり、勉強机の上にそのツナ缶を置いた。
少しだけふらついたが、足取りは、まっすぐ暗い自室から外に出るための扉へ向かっていた。
「あれ?どおしたの?ツナ缶たべるんじゃないのぉー?」
猫の口調と表情は唐突に元に戻っていた。
けれども、少年はひとつだけ変わったモノをもって、ドアノブに手をかけながら猫のいる方向に振り向いた。
「バーカ。」
少し笑って少年はそう言った。そして、扉を開いた。



「缶キリ、取りに行ってくんだよ。」

あとがき
こんにちは!ロマンキコウです!
今回初めてちゃんとした小説(?)を書いてみましたが、

時間が〜〜〜、
じかんがかかるぅ〜〜〜・・・。

どうしてもかかるんですよ!小説とかあまり読めない僕が表現などを考えると!
それに僕、手で書くことも、タイピングすることに関してもそりゃぁもうおそいのなんの。
漫画研究部も兼部しているから、それもやらなきゃいけないやらで、最近はもうどたばたですよ。
だけどやっぱ、いいですよね。自分の世界をこうゆう形にして読者の皆さんに発信するのって。
ホント楽しいです。
まだまだ未熟なところは星の数ほどあると思いますが、
これからもこのような形で僕の世界を発信していきたいと思います!


それではみなさん、次回もヨロシクネ。

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