ロマンキコウ

午 後 の 魔 法

熱された無色透明に 燃え尽きる前の陽の色が灯る

遠く向こうで響く カラスの笑い 猫のあくび
そのまた遠くで 白いハトの涙 犬の叫び 陽の入り

入道雲の微かな足音 取り巻く世界はほのかにあたたかい
木製のイスに腰掛けてみると 天井が高くなった 気がした
何気なく窓の外を眺めてみると
入り込んでくる輝く橙色の帯 その先には……

冷めた色が近寄る ゆっくりと 確実に

溜息を一つつく

ふと思い出したように
ポットと少し高価なティーカップを持ってくる
かちゃかちゃ  かちゃんと  ちょっと いそぎあし
ポットから注がれる濃くて透明な橙色 ティーカップへ
陽の光で一瞬輝いた

注ぎ込まれた湖面が揺れる
温かな湖面が揺れる やがて止まる

ほんのりと白い湯気が上がる
空気を少し白く染める やがて消える

冷めた色が近寄る
部屋の隅から
ゆっくりと 確実に

橙色の帯が薄らいでいく 陽の色に闇夜が混じる
それでもまだ燃え尽きてなどいない
冷めてしまう前にやるべきことが残っている

そうだ まだ残っている

私はふと思い出したように
ティーカップの湖を口元に持ってくる
まだ温かい もうちょっとで冷めてしまうだろう
すぐそこに深海
そして いまここに木製のイス

流した陽の色を ゆっくりと飲み込んだ

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