銀之喇叭

僕はここにいる

君はここにいる

それだけで十分じゃないか

いつも僕は何かを求めている

いつも君はそんな僕に悲観する

だけど

それだけでも互いの「存在」が明確にならないだろうか

あの日の僕は僕じゃなかった

あの日の僕も僕じゃなかった

今日の僕は僕だ

今日の君も君だ

僕はいつも君に何かをする

君はいつも僕に同じことを返してくる

人と人は「

僕と君は「

それは

僕と君の「存在」を明確にする

立派な「



 ある雨の日。
 10時を過ぎたばかりのレボロ街。その中央通りにあるドリンクバー『子戌』の店の扉に掛けられたcloseの看板。それは閉店時間が訪れたことを静かに悟っていた。誰もがその事実を疑わず、道端に並ぶネオンに光りを吸い取られた様に、『子戌』の店内の電気が静かに消えた。
 それからしばらくして、店の扉がゆっくりと開く。出てきたのは、傘を持ったココア色に近い茶髪の少年。髪と同じ色をした瞳は何処か遠くを見ていた。その遠くの先を目指すかのように、雨天のレボロ街へと静かに一歩踏み出した。
 港街レボロには、その名前の通り港がある。その港は大きく二つに別けられ、ひとつは「魚港」、もうひとつは「船港」と呼ばれる。
 大海原の先に見える黒い水平線。少年はそれを視界に納めてから、目蓋を閉じ、耳を澄ませる。海にあたる雨音が傘にあたる雨音に混じる。静かな水と騒々しい水が互いの主張を少年に訴えていた。
 時間によってはその主張が激しくぶつかり合い、時には緩和する。少年が口を出したところで、決して主張を止めようとはしない。だが、それに対して少年に一切の遺憾は無かった。
 自分の思い通りにならない雨音(こいつら)が好きだから。
 少年は振り返り、レボロ中央街へ続く階段を見つめ、呆れながら頬笑んだ。そして階段の先に立つ、金髪でコバルトブルーの瞳を持つ少年に向かって言った。
「雨、嫌いじゃなかったっけ?」
「雨音(こいつら)に話があったんだよ。いい加減降り止めよってな。別に、お前がいると思って此処に来たわけじゃないからな」
 階段にいる少年は、右手に持つ傘を回しながらそう言った。
「分かってるさ。それくらい」
 茶髪の少年は再び黒い大海原の水平線を見つめる。新たな雨音が、元からいた雨音に混じりあう瞬間に耳を澄ませながら、心で唱(うた)った。

 手に取るように分かる、お前の意思。

 俺たちは、どうしても雨音(こいつら)が聞きたかったから此処に来た。
 俺たちにしか聞こえない雨音(こいつら)の声を聞くために。

 分かっている。
 だって俺たちは「鏡」だから。

あとがき
 こんにちは。銀之喇叭です。今回は身近によくあることを、以前耳にした比喩で書いて見ました。『鏡』って怖いですよね。相手にしたことはいつか自分に返る・・・。要はそういうことなのです(笑)
 次回作は今回のお話に出てきた少年達が主人公として登場する、作者の人生の中でも一番の大作(おい。まだ15歳だぜ?もちろん自称だぜ?)である連続小説です。高校生活で何作続けられるかは分かりませんが、乞うご期待!!

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