沢村拓

天上のダイス

永澤はスーツを着ていた。
薄いブルーのネクタイをきっちり締めて、髪を整え、前をみていた。
永澤の目の前には三枚の頑丈そうな木の扉があった。出口はない。彼はそこでずっと止まったままだった。
 彼は昨日交通事故にあってあの世(現世)を去った。
目が覚めると、彼を天国へ送るか、地獄へ送るか、それとも、再び現世に戻るかの審議を神様たちがしていた。
彼は一瞬神様って人の形してるんだ、と妙な感動に襲われた。
が、一番年長に見える神様が(年齢があるのかは知らないが)
「お前は交通事故で死んだ。 だが、お前に過失はない。相手が勝手にぶつかってきただけだ。 そのため、お前にはこれから決断してもらう。お前が行くべき道はお前が決めろ。 扉には地獄、天国、現世への入り口がある。それでは健闘を祈る」
とやたら長く、全くの他人事のような口調で説明をした。
 それで彼は扉と向かい合う今の状況になった。
どうやら、彼がいる場所は空中に浮いているらしい。
下は真っ暗で恐怖すら感じる。彼は右端のドアに手をかけた。
だがひくのをためらってしまう。それの繰り返しが延々と続いていた。
彼は今まで大して使っていなかった脳みそをフル稼働させて、どの扉が現世につながるのかを見極めていた。
左から黒、灰色、白の扉。きっと地獄は黒なんだろう、と思ったが裏をかいて、白が地獄なのか、とも思う。
 「お前、決断遅いな。彼女とかいなかっただろ。優柔不断っていうんだよ。
そういうの」神様の一人がそういった。さっきからずっと急かす。
待つのが嫌いな神様もいる。彼はしっかり心に刻んだ。
突然、彼は「決めた!」と叫び、ポケットから一つのダイスを取り出した。
「一と四は左の扉、二と五は真ん中、三と六は右だ。」
そういうなり、ダイスを投げた。出た目はニ。彼は灰色の扉に手をかけて、一気にひいた。
そこには見慣れた空き地が見えた。が、その扉は閉じられた。
 一番年長の神様が
「気が変わった。悪いんだけど、お前、現世で良い事してないけど、悪いこともしてないから俺らの召使になって」
と威圧的にいう。彼はおとなしく「はい」と沈んだ声でいう。
(一部加筆修正)

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