常陸

本の虫

「・・・それ、何処から出した?」

「・・・ふへ?」



今日は朝から全校朝会。皆気だるげに話の長いと有名の好調の話を聞いている。いや、聞き流しているといったほうが的確だろうか。それで、今俺たちは体育館にいるわけだが、俺の隣にいる奴はいつも所構わず本を読む奴だ。今も現在進行形で読んでいるわけだが・・・何処から出したのか。

「それ、ハードカバーだよな」

「そうだけど」

「・・・何処から出した?」

「え?普通にポケットから」

四次元ポケットですか、あんたのものは。どう見たって文庫本がいいところだろ。ハードカバーが入るわけがない。

「でも入ったし」

「・・・俺、声に出してた?」

「出してない」

「・・・」

最早何も言うまい。何も言ってはだめだ。恐い。

「そんな顔しないでよ」

「お前がわからないんだよ」

寧ろ恐すぎて話したくも無い。

「話したくないならいいけどさ」

すると彼は再び手に持っていたハードカバーの本に視線を落とした。

言い忘れたがその本の残りページ数はあと見た感じ数十ページ。このペースなら直ぐに読み終わるだろう。それにしても読み終わるのが早いな。いくら校長の話が長いからといって十分そこらで二百ページほどのものを読み終われるものなのか?

「・・・流石本の虫」

本の虫。これは皆が彼に付けた渾名だ。宇宙人でもいいだろうが本ばかり読んでいるから本の虫となった。

「・・・本の虫で結構」

どうやら聞こえていたようで、横目で睨んできたが俺はそれを無視。そし手未だに終わる気配の無い校長の話に暇つぶしに耳を傾けた。



『・・・それ二冊目?』

『うん』

結局彼は校長の話の間だけでハードカバーの本を三冊読み終えた。

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