如月裕

星空と告白未遂

「寒いです無理。絶対死にます死にますってばちょっと聞いてるんですか先輩!!」
 午前二時、当たり前のように夜明け前。私は先輩からの「俺今からお前んち迎えに行くからちょっとジャンバー着て待ってろ」という電話のせいで、何故かこんな時間に外に出るという暴挙に出ていた。

 これが夏だったら許せないこともないのかもしれない。でも今はまだ冬真っ盛りだ。半端なく寒い。凍りそう。今なら確実に凍死できると思う。一応もこもこしたジャンバーを着てはいるものの、布の間とかから冷たい空気が肌に刺さってくる。そんな私の心情なんて微塵も分からないだろう先輩は、私に痛烈な一言を放った。
「んじゃ、歩くぞー」
「はぃぃいいい!?」
 この人今なんて言いました!? あ、歩くって!! ただでさえ寒くて三秒以内に我が家にカムバックしたい勢いなのに歩くって、いったい何考えてるんですか!! そんな意味合いのことを先輩に伝えたが、サクッとシカトされた。
(こんな暴挙をしでかすムチャ振り先輩ではあるが)一応先輩なので、たとえ腐っても年上なので、おまけに私の所属する天文部の部長なので、逆らえずに、私は先輩に従って歩いた。

 歩く、歩く、ひたすら歩く……。

 ここは田舎で、その中でもさらに閑静な住宅地だ。音も、電灯の光も、とてもまばら。月光と合わせても、自分の足元が確認できるぐらいの明るさしかない。寒くて歩く以外のことをする元気もなく、自然と私は無口になり、先輩も喋らなかったから、私たちはただただ歩き続けていた。
 そして、しばらくして……。

「着いたぞおおおぉぉぉ、……?」
 原っぱの真ん中ぐらいで、不意に先輩がそう言った。微妙に語尾がおかしくなっていったのは無視して、足を止めて辺りを見回す。すると、前の方に見慣れたランタンの光が見えてくる。あれは、天文部で星を見る時に使っているものだ。つまり。
「部活、だったんですね……」
 はぁとため息をつく。とりあえず、部活でよかったと思った。ここまで歩いてきたことに対する明確な理由があって。これで「ウォーキングは健康にいいだろ?」なんていう意味のわからない理由を持ち出されたらどうしようかと思ったし。……そんな理由だったら絶対に殴るだろうけど。
 先輩はずかずかとなぜか怒ったふうで光の群生の方に歩いていく。先にいた副部長さん(男)の胸倉をひっつかむ。何か言い争っているようだった。
「何でお前らがここにいるんだよ!!」
「それはこっちが聞きたい。何で俺たちに連絡しなかった」
「う、そ、それは……」
「まぁ、お前の考えてることなんて大方予想がつくけどな」
 何を争ってるんだろう。二人とも小声で喋ってるから、何を言っているのか全然分からない。どうしていいか分からずぼさっと突っ立っていたら、友達の飛鳥がお茶をくれた。
「はいお茶。ずっと歩いてきたから疲れたでしょ」
 保温瓶入っていたらしいほうじ茶はまだ温かく、私の両手の中で湯気を量産し続けている。一口もらって、ほっと一息ついた。あいかわらず先輩と副部長さんは争っている……、というより、先輩が突っかかっていって副部長さんが軽くいなしている。ほんと仲良いよなぁあの二人。ちょっと羨ましい。
 飛鳥が副部長さんと先輩に呼びかける。
「二人とも、そろそろ時間じゃないんですかー! 見逃しますよー!」
「うぉっ、忘れてた! 今行く!」
 二人がこちらに走ってくる。先輩はごろんと原っぱに横になった。副部長さんと飛鳥もそうしているので、私もとりあえずそれに倣って横になってみた。
「えと、今日って何かありましたっけ……?」
「あ、言ってなかったか。今日はしぶんぎ座流星群なんだよ」
 しぶんぎ座流星群。昔、放射点付近に「壁面四分儀座」という星座があったためその名がついた。りゅう座ι(イオタ)流星群とも呼ばれていて、マイナーな割に速く明るく、一時間に五十個と流れる数も多い。
「あ、流れ出したよ!」
 飛鳥がそう言ったのに促されて真上を見ると、確かにたくさんの星が流れだしていた。それはまさに雨のように。その光景に感動していると、飛鳥が私の方に寄ってきて、先輩と副部長には聞こえない声量で私に言った。
「部長ったら、私達にはここに来ること言ってなかったのよー」
「え!?」
「ほんとほんと。副部長が情報掴んだから先回りしてたってわけ」
「でも、いったい何のためにそんなこと……」
「そりゃ、あなたが好きだからでしょ」
 え? と思わず呟いて飛鳥の方を見る。飛鳥はにこにこと笑っていた。同時に少し面白がっているようにも見えた。それを見て、先輩に言いたいことが思い浮かぶ。むくりと起き上がって、先輩の方に近づいた。先輩はちょうど上身を起こしているところだったのでちょうどよかった。まっすぐに先輩を見つめて言う。
「私も好きです!」
 なんか宣言っぽくなっちゃったけど気にしない。先輩は耳までりんごみたいに真っ赤になってる。……何で? と思ったけどあえて気にしないで言いたいことの続きを言った。
「でも、天文部の人はみんな好きだと思いますから、みんなにも声をかけた方がいいと思いますよ」
「……? ひとつ聞くけど、お前、何が好きなんだ?」
「え、だから、星が……」
 そこまで私が言うと、先輩が深い深ーいため息をつく。副部長さんと飛鳥は、腹筋がひきつるんじゃないかというくらいにお腹を抱えて笑っていた。先輩はと言えば、
「うん、そういう奴さあいつはわかってただろうが俺何を今さらへこんでんだよ……」
 とかなんとかぶつぶつ呟いている。変なこと言っちゃったかな、私。
「えと、あの、先輩……?」
「うあああああ!!」
 無我夢中を体現したように先輩は私なんか目もくれず、原っぱの向こうの方へ走っていく。呆然としている私に飛鳥が言った。
「はーい行ってらっしゃーい。そして誤解といてきなよ」
 その言葉に促されて、わけのわからないまま私は先輩を追いかけた。
 残された飛鳥はポツリと呟く。

「なんていうか、部長、かわいそ……」
 つまりはこういうこと。飛鳥が言った「あなたが好きだから」には、《先輩は》が省かれていた。でも彼女は、《星を》が省かれていると勘違いしたのだ。だからあんな面白すぎる事態になった。面白いのはいいのだが、さすがに鈍感すぎる。この調子だと、
「何か、部長の告白、未遂に終わりそうですねぇ」
 飛鳥が少し冷めてしまったほうじ茶をすすって言い、副部長がその言葉に深く頷いたことなんて、向こうにいた二人には知るよしもない。

                                       Fin.

アトガキ+++
はじめまして。如月 裕(きさらぎ ひろ)といいます。新入部員です。
私油断すると長文野郎になるので部誌でそれはまずいだろと自重したら、ちょっと自重しすぎてスペースが余るという非常事態を引き起こしました。
ホントのっけから何やってんだよ自分って感じです。運動会の徒競走で、親がカメラ回す中張り切りすぎて豪快にフライングしちゃったようなあの恥ずかしさに似たものが胸に込み上げてきます。(別にフライングしたことないですが
内容も結構大変です。書けるほども内容ないんで書きませんが何がひどいって、このグダグダ感が。しかも強制終了ですからホント救いようがない。ちなみに一番書いてて楽しかったのは副部長です。(ぇ
支離滅裂な文章で読みづらかったことと思います。すみません、もっと精進します……。
それではお付き合いいただきありがとうございました! 如月裕でした!

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