如月裕

屋上と炭酸飲料とマーチ。

五月、ゴールデンウィーク前の屋上。すがすがしいほどの青さの下、昼休み、俺とあいつは屋上で休んでいた。俺は右手にバスケットボール、あいつは文庫本と炭酸飲料持参という格好で。

「ひゃーっ、気持ちいーっ」
あまりの空の青さと太陽の眩しさに目を細めながら、俺は屋上にごろりと転がる。あいつはというと腰を下ろし上半身を柵にもたれかからせて、早速カバーのかかった文庫本を読み始めていた。時折炭酸を口にしながら。
「今日は何読んでんだ?」
寝っ転がったのも束の間、むくりと起き上がってあいつの方に近付くと、
「『人間失格』。今年太宰が生誕百周年だとか言ってたからどんなもんかなと思って」
と当たり前のように言われた。いやいや待て待てちょっと待て。
「お前学生の仕事は夢見ることなんだぞ、何でこんな天気のいい日にそんな自己否定作品読んでんだよっ」
バッと、あいつの持っていた文庫本を取り上げる。こんなにいい天気の日、屋上で、新発売とか書いてあった(ような気がする)炭酸飲料を飲みながら、太宰治の『人間失格』を読む人間が一体どこにいるっていうんだ。……ここにいる奴以外で。そう考えていると、
「こんなに天気のいい日だからこそ読むんだろ」
とすげなく返され同時に恐ろしいと感じるほどのスピードで本をとり返された。恐るべし、本の虫。暇を持て余して、バスケットボールをくるくるいじっていると飲むか?と炭酸飲料が顔の前に差しだされた。拒否する権限がないので無理矢理一口、口の中に押し込めると、溶けていた炭酸が口の中でしゅわしゅわと反乱をおこした。再確認した、俺、やっぱ炭酸苦手。慣れない。ぶえ、と舌を出して缶を返すと、人が好んで飲んでるものに対してその反応はないだろと殴られた。
「いってぇ!元はと言えば俺が炭酸苦手なの知ってて出すお前が悪ぃんだろが!!」
「黙れバスケ馬鹿。いつもボール触ってないと落ち着かないくせに」
いってぇと言ったのが聞こえたのか聞こえなかったのか、今度はべしっと飲み終わった炭酸飲料の缶が俺に投げつけられる。いやいつもじゃねぇよ!?と反論すると、無言で傍らにあるバスケットボールを指さされた。視線が、それはどうなんだ、と告げる。仕方ないだろ行事重なって練習時間が限られてんだよ!と反論したが冷たく虚しくスルーされた。泣いていいですか。いくらなんでも扱い酷すぎませんか。
「ま、気持ちは分からないでもないけどさ。もうすぐ部活の大会だろ?」
ヘコんでいるとふいにそう声をかけられた。そう、もうすぐインターハイが始まる。一年に一度だけ、一度負けたら終わりのトーナメント。油断も何も許されない。今年は勝てそうかと聞かれて、わかんねと答えた。うちのバスケ部は一回戦負けを覚悟するほどは弱くないけれど、決して強いわけでもない。相応の練習はしているが強豪校のとの差は否めない。
「頑張るさ。だって俺三年だし。最後の大会でこれ終わったら引退だし」
「ああ、運動部はそうだったな、頑張れ。人並みには応援してやるよ」
人並みにってなんだよ、と笑う。頑張れって言ってやるとか?と真顔で首をかしげながら言うあいつを見てさらに笑った。頑張りますか。普段応援なんて嘘でもしない親友に、めずらしく頑張れって言われたし。意思表明のために拳を青い空へと突き上げる。
遠くから、吹奏楽部の軽やかなマーチが応援歌のように空に向かって響いていた。
               Fin.

アトガキ+++
お久しぶり、あるいははじめまして春に真冬の話書いて晩秋に初夏の話書くなんざお前いい加減にしろよなと言われそうな如月裕です。季節感?そんなの知らねーよ!
今回はページが余ったのであとがきたくさん書けます高文連ではあとがきの存在を半否定されていましたがそんなの知るか!ってな感じです。好きなものは好きなんだ!
小説の方にバスケ馬鹿少年が発生しているのは完全に私の趣味ですごめんなさい。あと吹奏楽部昼休みに練習なんてめったにしねぇよというツッコミはなしです。
それではまた次回お会いできることを祈りつつ。お付き合いいただきありがとうございました!如月裕でした!(あれ、たくさん書けるとかゆったわりに結局埋めてない…)
【BGM:Time Limit & CROSSBEAT(s) & 夜桜 (→Pia-no-jaC←)】

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}