南阜

猫読書

「ふぁあ」
放課後の廊下はあくびがよく響くものだ。


一人の猫背の青年は廊下をゆっくりと歩く。しわしわのブレザーを羽織り、少し天然パーマの髪を気にしながら、ゆっくりと歩いていた。
彼の名前は森 晃紀。見た目は結構顔立ちも良く、格好いいのだが、姿勢と態度の悪さがキズだったりもする。性格も気まぐれな気分屋で、まさに彼は猫のような存在だった。彼は図書室に向かっているようだ。

「晃紀!」

晃紀の名を呼んで走ってきた青年、中基 尚はにこやかに晃紀の顔を見た。
晃紀は嫌そうな顔を浮かべた。
「あれ、おれのこと、同じクラスなのに覚えてくれてないワケ?」
尚は苦笑いを浮かべながら晃紀の方を見た。

「俺、物覚え悪いんでサヨナラ」

晃紀はあっさりと話を切り捨て、図書室に入ろうとした。
「ちょっとぉお!流すなよ!」

…面倒な人…ってかいきなり呼び捨てって馴れ馴れしいな…
晃紀はぼそっと小さな声で(だけど尚に聞こえるように)言った。
…うわぁ、なんだコイツ。晃紀って、部活入ってねーの?
尚は一瞬口元を引きつらせたがすぐ笑って問うた。
「…入る訳ないじゃん、面倒臭い」
晃紀はどうやら面倒なことが嫌いらしい。晃紀はゆっくりと図書室の扉を開ける。尚もついて行こうとしたら扉を閉められた。
「ちょ、何コレ、いじめ?」
尚は焦って扉を開けながら言った。
「…いや、目的地、違うと思って」
晃紀はわざと臭く鼻で笑いながら言った。
「いや、さっきの話の流れ的に、図書室入って一緒に話すみたいな展開だったよ?何故に閉める!」

「…もしかしてさぁ、アンタって」
晃紀はじろっと尚が居る方を見た。明らかに尚の方は見ていない。
「…ストーカー趣味なの?」
尚はどん底に突き落とされた気分になった。
「おれはストーカーじゃねぇええ!」
尚は反抗したように言ったが、晃紀はさらりと流した。

「…アンタは本読むの好き?」
「うわぁ、なんて自分勝手、コイツ絶対B型だ。まぁ、好きだけど」
「へーそう。残念でした。俺、ABだから
晃紀は小説が置いてある本棚の方へ向かった。尚もついて行く。

「……つーか、本好きなんだな」
尚は本棚を見回しながら言った。
「別に好きじゃないけど」
晃紀は次々と本を取って行く。
「あれー?じゃ何でいつも図書室に?」
尚がそう聞くと、晃紀は一瞬その場に止まった。

「…面倒だから」
晃紀は尚の顔を一瞬見て言った。尚は「おれのことか」と言って苦笑した。
すると晃紀は静かに呟いた。

「別にアンタのこと言ってるわけじゃ…ないとおもう」
「おもうが余計だ、おもう・が。あと、ない・のときの間、何?」
尚は少し嬉しそうに言った。文句を吐きながら。


しばらくし、晃紀は適当に取って行った本を机の上にドサッと乗せ、椅子を引いて座った。晃紀は数十冊の本をじっと見た。
「…こんなに読むのか?」
「まさか、そんな超人じゃないし、普通に考えて、無理だよ」
晃紀の毒舌に大分慣れてきた尚は軽く笑った。

「こんなに本持ってきた理由は?」
尚は一番上に乗っかっていた本を取り、読み始めた晃紀に問うた。
「…すぐに飽きてしまうから。俺、つまんないって思ったら、次のを読もうと取りに行くのも面倒だし、先に持っておいたほうがいいと思っただけ」
晃紀はゆっくりと本のページを開く。晃紀の背筋はやはり丸くなる。
尚は納得したように「ほぉ」と言った。

ペラリ、ペラリ……ドサッ……ペラリ、ペラリ……ドサッ

「つーか飽きんの早ぇな!」
尚は居ても立ってもいられず、思い切り晃紀に突っ込んだ。
「だって、これ、読んだことあるし」
晃紀は次の本を取り、ページを捲って行く。
「そーなのかよ!覚えておけよ!読んだ本くらい!」
「やだよ、面倒臭い…」
晃紀は嫌そうな顔をした。尚は困ったように晃紀の顔を見て言った。
「そこ面倒くさがるなよ!」
「図書室の本、小説は大体読んだ」
「へぇ、すげぇな」
尚は感心して言った。
「読書も飽きてきたし、なんか、面白いこと無い?」
晃紀は本を無造作に机に置き、言った。
「おれと「遠慮しとく」まだ言ってねぇよ!」
尚は少し涙目で言った。晃紀は楽しそうに軽く鼻で笑った。

「あ、おれ、この間、山田シリーズの最新作買ったんだ、よかったら貸そうか?」
尚は思い出したかのように言った。晃紀は目を見開いた。
「………貸してくれるなら借りる」
晃紀は少し考えたが、ゆっくりと頷いて言った。
「じゃあ、おれ、明日持ってくるよ!」
尚は嬉しそうに笑って言った。晃紀も少し嬉しそうに笑った気がした。


翌日。
「晃紀!ほら、昨日の!」
尚は晃紀の名を呼んだ。晃紀はゆっくりと振り返る。
「昨日の…って何だっけ?」
「本だよ!」
尚は朝から元気そうに突っ込みを入れた。
「あぁ、本…山田シリーズの…」
「最後まで読めよ!」
尚はからかうように笑って、本を渡した。
「ありがと、中基くん(・・・・)
晃紀は尚の顔をみてにこりと軽く笑って言った。

「尚って森といつ仲良くなったんだよ?」
尚の友人が尚に問うた。すると尚は意地悪く笑い、
「内緒!」
と嬉しそうに言った。

――――猫が、懐いてくれたときの嬉しさを感じた。

数日後にぐしゃぐしゃになって本が返されるのは言うまでもない。
                                おわり

あ、余った…のであとがき。
…どうも、南阜です。
最近のマイブームは天然パーマです。ハイ、分かってます。
自分はただの変態です。最高の褒め言葉ですよ、変態って。
……すみませんでした。ありがとうございました。

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