時計塔

とあるラジオ番組

 何もすることがなかったので、テーブルの上にあったラジオのスイッチを押してみた。
『はいっ、日本全国の皆様いかがお過ごしでしょうかっ? 今週から新ラジオ番組、【真さんに聞いてみよう!】の始まりで〜す☆ 現在話していますのはサポーターの私、遠藤でございますぅ。これから毎週真さんの傍で面白おかしくニコニコやっていきたいと思いま〜す! では、真さん、この番組では一体何をするおつもりでございましょうか?』
 そこで会話が途切れた。……ようするに、ラジオの主催者である真さんが何も喋らないのだ。
『ちょ、ちょっと真さん…? 何やってるんですか生放送中ですよ? 居眠りしてる場合じゃないですって! え、何、紅茶がほしいって? ここにきて我儘言わないでくださいよ、そこに烏龍茶があるでしょう! ……アイスティーじゃないと嫌だァ? もうどうでもいいから早く質問に答えてくださいよ、もう3分も経ってるんですよ、ラジオじゃ論外です!!』
 焦った遠藤さんの声が聞こえる。どうやら真さんが居眠りをしていたらしい。遠藤さん自身は小声で話しているつもりらしいが、こっちからしてみれば丸聞こえだ。そして、少し経ってから、寝ぼけたような男性の声が聞こえた。
『え〜、この番組ではァ各回のお題にそって視聴者の皆様から質問やご意見をいただきィ、それに対してこちらが面白おかしくトークする感じですねぇ、確か。』
『それでは早速視聴者の皆様からの質問やご意見を読んでいきたいと思いますぅ。ところで真さん、今週のお題は?』
『現代の社会問題について。』
『そうですよねぇ、今や日本は少子高齢化や環境問題などさまざまな問題を抱えていま『の、ハズでしたがッ!!』

 いきなり真さんが口を挟んだ。
『気分が変わりました、私は今紅茶が飲みたいです、ものすごくッ! ……と、いうわけで、今から皆様にお勧めの紅茶を聞かせてほしいと思います。』
『……そ、それでは今から十分間、メール、ファックスの受付をしたいと思います! 皆様、お待ちしております!』

……これを聞いて遠藤さんに同情するものは少なくないだろう。
『真さんっ! 紅茶がほしいからって自動販売機巡りの旅に行こうとしないでくださいっ! いい加減怒りますよ。……ほら、そこの鞄の中にミルクティーが入ってますから、それで我慢してください! ……あとで飲もうと思っていたのに……。』
『あっはっはっはっは☆』
『笑っていられるのも今のうちですよ、見てくださいよあのミキサーさん達の顔、まるで死刑宣告を下した裁判官のようです。』
『大丈夫さ、あの人たちだって、心の中はきっと青空のように晴れやかなはず。』
『もしそうだとしたらその理由は多分2人分の給料削減が実行できるからだと思います。』
『あ、今心なしか口元が笑ったように見えたぞ?』
『目元をよく見てください、微塵も笑っていません。』
『いやぁ気のせい気のせい、僕には満面の笑みが見えるよ。君は少し目が疲れてるんじゃないかい? そういうときはハーブティーを飲むと落ち着くよ。……あ、そろそろ10分経過する頃だね。』


『はぁ〜い、ではそろそろ10分経過したので、ここで皆様からいただいたお便りを読んでいきたいと思いまぁ〜す!』

 視聴者が本題よりも2人のフリートークに耳を傾けていたのは、言うまでもなかった。

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