シロ

3丁目カフェ

「ねぇ、なんでこんなところでカフェやってるの?」
普段とは違う飲み物に調子に乗って、気になっていたことをおにいさんに聞いてみた。おにいさんは少しも考える様子もなく、小さくあぁと呟いた。
「この店、じいさんからもらったお年玉なんだよ。」
「お年玉?」
「『金が欲しけりゃ自分で稼げ』。あのじいさんの考えそうなことだ。」
小さく笑いながら話すおにいさんの顔は楽しそうで、私も一緒になって笑った。
「高一のときの誕生日はアルバイト情報誌だったな。」
「なにそれ。」
思い出しながらあれはないと一人頷いているおにいさんの前で、私は気分が落ちていくのがわかった。誕生日ほど寂しいものはない。働きに出てしまっている両親がプレゼントを用意してくれたことなどなく、一人寂しく家にいるのが当たり前だった。
「あ。」
話の途中で突然呟いたおにいさんはちょっと待ってろとだけ言い残して奥に引っ込んでしまった。どうしていいかわからずに私はすっかり溶けてしまったアイスをストローでカフェオレの中に押し込んだ。
 数分後、戻ってきたおにいさんの手には皿にのったマフィンがひとつ。こんがりこげ茶色に焼けたマフィンからは美味しそうな匂いがして、そういえばお昼は食欲がなくて食べてなかったことを思い出した。おにいさんは私の前にマフィンを置いて、また皿洗いを始めた。
「食べて良いの?」
「そのために出したんだよ。」
ぶっきら棒に言うおにいさんが不器用なのは知っているので大して気にせず、いただきますと両手を合わせた。
「…美味しい」
「そりゃよかった。牛乳の賞味期限が切れそうだったんだ。」
「なにそれ」
まるで下手な言い訳のようで、可笑しくなって笑ってしまった。おにいさんは少し不貞腐れたようにそっぽを向いたが、可愛らしい照れ隠しにしか見えなかった。

「それ喰ったら帰れよ。餓鬼はもう帰る時間だ。」
「明日はカップケーキがいいな。」
「牛乳がねぇ。」
「買ってきてあげるよ。」

* あとがき
初めまして、シロっす。毎度毎度内容の薄い文章ですいません。ごめんなさいねぇ。
そういえばP.N変えました。元・叉凪(さなぎ)です。当て字だと読めないとのことなので、覚えやすく読みやすいカタカナで。
『物語で大切なのは過程であって、クライマックスじゃねぇ! 勇者が冒険に出たら最後は魔王を倒すのなんてわかりきったことなんだ。勇者がどう成長するかが面白いんじゃねぇか!』
シロは上の精神のもと文章を書いています(笑)

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