ロマンキコウ

超短編詩集「ゆらら ゆらら」


「鮮やかな黒と白」

灰色が混ざらない
純粋な黒と白だけの世界が
僕らのすぐ手元に有って
僕らは星と星を繋いで
意味を形作るように
そこにある黒い線をなぞって
にび色の硝煙や 錆色の戦車や
セピア色の写真や 夢が眠っている海や
萌える草原や 熟れた果実や
鮮やかな虹を
手招くように描き出すのだろう
生まれたのは 黒が先か 白が先か
そのような問いに向かって手を振って
ただひたすらに描き出すということを
灯台から見下ろせば 見えないかもしれない
小さなびいどろの中で続けていられるのは
なんと優しくて
幸せなことなのだろう

そして波に揺られながら僕は
次のページへとその手を導いた





「フィクション〜マングースの章〜」

私たちは何故この場所にいるのだろうか?
可能なのであれば 知りたい
ノアの箱舟などという
得体の知れぬものに揺られて
揺られて 揺られて
たどり着いたのだろうか?
誰かに利益を与えるために
たどり着いたのだろうか?
心地良い空気の衣に包まれ
日向の中にその理由が潜んでいる事を知らぬまま
マングースは思考した





「ハルシネイション」

秋の乾いた風が吹き
いつの間にか夏が消えて
海も冷えていく
駅前通りの枯葉が踊っているのが
丘の上からもはっきりと見えた

かんらからから
木々が笑い声を立てた
朽ちた身体を震わせた
消し炭のような色の空の下
国道は今日も騒がしい

さて
しょうがない しょうがないと
すり足で忍び寄る憂鬱に
背を向け僕は
その場所へ行くのだろうか?

たかが約束 されど約束
近づくことなどしたくはない
辛いと一言いえども
てくてくと歩いていく
遠くにあるその場所へと

何もないわけではない
憎しみもこれといって大きいものでもない
塗りつぶされて黄色になったイチョウが舞う
猫は他人事を目の前にしてあくびを吐いた
ノスタルジアで満ちたあの場所へ

ハルシネイション





「影」

僕は影を音も無く引きずっていく
ただ 僕は影に時々引きずられる
陽が堕ちると影は死に 僕は眠る
そして 僕が目を醒ますと 影はまた生き返る
何度でも 何度でも 

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