ロマンキコウ

くれいじぃW・L


その弐 「未来の世界の・・・・・、」

ある日、俺はチワワと出会った。大事件であった。何故そのようなことが大事件なのかと言うと、その(見た目は普通の)チワワが自分の勉強机の引き出しから、奇妙な電子音と共に這い出てきたからだ。しかもそいつは、目が合った時、
「こんにちは。僕、『ノラたろう』です。」
喋ったのだ。  どうやらそいつは、「不幸」としか換言できないほど絶望的な、暗黒に満ちた俺の未来を救いに、未来から来た犬型ロボットなのだと言う(具体的に、どのような不幸な未来なのかは、生々しすぎて、本編では紹介できない)。と説明するがはやいか、俺が食べようとしていたぼた餅を食べ始めた。
 俺は最初、前触れもなしにやってきたその犬を、半径3メートル以内に近づけないようにしていたが、日が過ぎていくごとに恐怖心は薄れ、いつのまにか囲碁の対局に付き合えるほどに、距離は縮まっていた。しかしそいつは、一向に俺の未来を救うような際立った行動はせず、毎日、俺の部屋でだらけていた。
 ある日、俺は明日が期限の宿題を、学校の教室に忘れてきた。そして、それを取りに、自宅の玄関から外に出ようとしたとき、あの犬の存在を思い出した。未来の世界から来たロボットなら、かの有名な青い猫型ロボットのように、様々なハイテク道具を持っているに違いない(かもしれない)。そう思い、俺は自分の部屋で姫路城のプラモデルを作っていたノラたろうに、あっという間に自宅から学校に行くことのできる道具は持っていないかどうかを、聞いてみた。それにしても、随分と器用に犬の手で、やすりやら、ニッパーやらを扱うものである。少し気味が悪い。
「ああ、瞬間移動装置ね。いいよ、貸してあげる。」
予想通り、持っていた。しかもあっさりと貸してくれるのだ。願ったり叶ったりである。そして、ノラたろうは寝床にしている押入れの中から、何かを取り出した。それは・・・、木の板?数枚の木の板であった。俺はドアや窓のような形状のものを期待していたので、一瞬ノラたろうが用意したものが何かわからなかった。
 しかし、これがどのようにしてワープ装置の役目を果たすのか、俺には想像がつかなかった。仕方なく、俺はノラたろうにその道具の使い方を教えてもらうことにした。
 その道具は、組み立て式であった。特殊なのこぎりや接着剤などを使い、特殊な木の板数枚を加工して箱を造ったとき、初めて、空間と空間の行き来ができるようになるという。仕組みは、さっぱりわからなかったが、とにかく、完成させれば確実にワープが可能になるという。俺は、早速作業に取り掛かった。
 作業は意外と難しかった。寸法を少しでも間違えてしまうと、箱の形に木の板を組み立てられなかったり、組み立てられたとしても、ガタガタになってしまうからだ。何度か接着する場所が、ずれてしまったときもあった。しかし、途中でノラたろうの手伝いがあったおかげで、三時間で、やっとそれを完成させることができた。すがすがしい達成感が、そこにはあった。
 そのあと、俺はその箱の中にできたワープゾーンを通って、宿題を取りに行き、同じワープゾーンを引き返して、自宅へ戻った。帰りのワープゾーンを抜けた瞬間に、箱は風船がしぼむような音を出して、消え去った、使い捨てだったらしい。
 その夜、俺は布団の中に入った状態のまま、押入れの中で寝ようとしているノラたろうに話しかけた。
「なあ、ノラ。」
「何?」
「俺、家から学校へ行ったら、片道三十分くらいかかるんだよね。」
「それで?」
「いや、それでさ、やっぱ道具に頼らずに自分の足で学校へ行った方が、時間的に得だったかなーって、思うんだよね。」
「まあいいじゃん。宿題持ってきて、一応やったんだから。」
「そうかなあ?」
「何でもいいじゃん、とにかくもう夜遅いから、ここらへんで会話は終わりにしよう。」
「うん・・・・・、」(なんか間違ってるような気がするんだけどなぁ。)
「それじゃぁ、おやすみ。」
「ああ、はい、ノラたろう、おやすみー。」

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