ロマンキコウ

くれいじぃW・L


その壱 「地球破壊爆弾」

 ある日の朝。僕は博士からの呼び出しを受けた。
「大変な発明をした!とにかく、研究所まで来てくれ!」
 博士が休暇中の人間を研究所に呼び出すことは、僕の知るところでは全くなかった。どうしたのだろう?「重大な発明」とは何なのだろう?そのような、いくら考えても答えの見つからない疑問を抱きながら、僕は自宅から大学へと、バイクで向かった。
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 扉を開けると、そこには白衣を着た、身の丈の小さい、老眼鏡をかけた老人が、いすに座って考え事をしていた。
「やあ、来てくれてありがとう。休暇中にすまないね。」と、老人が言った。
 この立派なひげを蓄えた老人が、博士である。
「いえいえ、問題ありませんよ。ところで・・・・・、」
「『重大な発明とは何か?』・・・じゃな?」
僕の疑問を察したように、博士は言った。
「はい、そうです。」と僕は答えた。
「・・・・・。」
数秒間後、博士は白ひげに覆われた口を開いた。
「そこにブルーシートに覆われた機械があるじゃろう?」
それ(・・)は研究室の中央の机に置かれていた。炊飯器くらいの大きさであったが、何か物々しい空気を醸し出していた。
「これはなんですか?」
「地球破壊爆弾じゃ。」
「は?」
「この中に、地球を丸ごと消し去る力が満ちている。」
「こんなものが、地球破壊爆弾?」
僕はそれに手を伸ばした。
「 触 れ る な ! 」
博士は、残り短い人生の半分のエネルギーを使った、と思わせるほどの大声で、僕がそれ(・・)に触れそうになるのを止めた。僕は驚いて、
手を引いた。
「あの・・・、何故こんなものが、この大学の研究室に?」
「わしが作ったんじゃ。」と、博士は言った。僕は再び驚いた。
僕の口が、いつの間にかぽかんと開かれていたのに気がついた。
「わしらは世界中の地雷を低予算で、どのようにすれば効率良く除去できるかの研究を行ってきた。その研究中に、偶然発見した要因に、わしはひらめきを感じた。長年の勘というやつじゃな。それを突き詰めて、具体的にしてみようとした結果が、その爆弾じゃ。わしの論理と計算によると、この爆弾をここで起爆させると、まず、爆発により、爆心地の周囲半径十キロメートルは焦土と化す。大量破壊兵器も真っ青な威力じゃ。しかし、それは第一波に過ぎない。最も恐ろしいのは、その後に来る衝撃波じゃ。衝撃波は、爆心地を中心に放射状に広がり、人を、民家を、街を、国を、地球を破壊し尽くす。そして、それが治まる頃には、地球は土くれの塊となってしまうのだ。」
博士の言葉の中には、妙な確信にも似た何かが、見え隠れしていた。どうやら博士は、自分がとんでもない物を発明してしまったと思っているようだ。それは、本当かもしれないし、思い違いかもしれない。
「そうすると博士、あなたは一体これをどうなさるおつもりなのですか?まさか、学会に発表なさるおつもりではないでしょうね?」
「ばかいうな。こんなものを公表すれば、ばかなマスコミ共によっておもしろおかしく世間に広められ、世界の国々は混乱に陥り、多くの民衆は爆弾の存在に恐怖するじゃろう。世界情勢において優位な立場に着きたいがために、無理やり奪い取ろうとする輩が現れるということだって、十分に考えられる。」
「それならば、何故僕のような者にその存在を明かしたんですか?」
「そりゃあもちろん、爆弾の解体を手伝ってもらうためじゃ。安心したまえ、確実に、安全な解体の方法をわしは知っておる。」
何がもちろんなのだろうか。ということは口には出さず、「わざわざ造ったものを、何故ご自分の手で壊してしまうのですか?」と、僕は尋ねてみた。
「こんな強大すぎる兵器、脅しのためにしか使えないからじゃ。わしは、地球を破壊する理由を持ってはいないし、どこかの国のボスが使ったとしても、自分が得たいもの、例えば金や領地、経済的地位もなにもかも、地球とともに吹っ飛んでしまうからのう。宇宙に逃げてから地球を爆破しても、得られるのは、どこまでも続く宇宙空間の闇と、滅びるしか道のない、つまらない人生だけだからな。爆発する、と言う本来の力を発揮する機会がないなんて、この爆弾が、かわいそうじゃろ?」
「そうかもしれませんが、それならば、何故博士はこのようなものを造ろうと思ったのですか?」
「はっはっはっは。結構結構、様々なことに疑問を持つことは、人間の頭脳の飛躍に繋がる最も重要なことだ。」
博士は笑いながら言った。笑った後、一息ついてから彼はこう言った。

「ただ単に興味を持ったから、追求してみたまでじゃよ。科学者としてね。」

わかったような、わからなかったような、とにかく、腑に落ちない気分に僕はなった。この爆弾が爆弾である確実な証明はどこにもないのだ、それなのに、自分で造り終えた発明を壊してしまうなんて・・・・・。
「コーヒーを淹れてこよう。飲み終わったら、早速作業に取り掛かろう。」
 そういって彼は扉を開けて、研究室から出て行った。

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