「ところでイア、お前そんな短いスカート穿いてて寒くないのか? 膝の色変わってるぞ。」
「あぁ、平気よこのぐらい。それに色なんて変わってないし。目がおかしいんじゃない、シーくん?」
ニッコリと、イアは小悪魔みたいな笑みを俺に見せながら言った。
やっぱり昨日キースが言っていたのは真実なんだとわかった。明らかに赤く変色しているイアの膝、しかし自分では気付いていないのだから。俺は少し複雑な気持ちになって、軽く相槌をうってキースを見た。するとキースはイアに聞こえないぐらいの小声で俺に言った。
「アシル、あまり探りをいれるなよ。」
「わーってるって。」
さっきのイアへの言葉は、昨日のキースの話が嘘だったらいいのに、と言う願望から出た言葉だ。もう真実だとわかってしまった以上、探りなんて入れやしない。
ぼぅっとして歩いているうちに、ドクターのことへ着いたようでキースに額を小突かれた。
「イアは先に中入ったぞ。ほら、お前も早く中に入んな。」
そうキースに言われ、キースが開けてくれているドアから中に入った。一足先に中に入っていたイアは、ストーブの前にしゃがんで膝を擦っていた。そんなイアの後ろ姿を見れば、耳まで真っ赤だった。
「ドクター! Dr.メルビィ! 患者だ、出て来てくれ。」
キースが家中に響く大声で叫んだ。俺はイアの横にしゃがんで、イアと一緒にストーブに当たった。
Dr.メルビィ、通称ドクターはこの島唯一の医者であり、その上女医だ。異常なほどの怠け癖があり、医者でありながら患者を断ることもあるらしい。勿論、最後には診てあげているようだが。しかしこんな彼女も腕は確か。一流の医者、という噂だ。幸い俺はなかなか怪我も病気もしないせいで、会ったことは十五年前に階段から落ちて、骨折した時一回だけだ。その上その時は機嫌が良かったのか、すんなり治療をして貰えた。だから彼女の噂が本当なのかはわからないが、よく風邪を引いてここへ来るキースからしたら、噂はやっぱり本当らしい。
やっと体も暖まったかと言うところで、ドクターが二回から降りてきた。相変わらず、四十歳とは思えぬ美貌だ。
「煩いぞ……なんだキースか! また風邪菌に負けてしまったか、このガキは!」
「違う! 今日はイアが患者だ。」
「イア? あぁ、コレットの娘か。」
やっぱり、俺よりも全然大人なキースをガキ扱いするなんて、すごい人だ。しかしイアの前でコレットの話は……と思ったが、イアはそんなこと気にするような女じゃない。と改めて思いだし、俺はドクターに話しかけた。
「お久しぶりです、ドクター。」
「……あぁ、アシルか! 懐かしいな、十五年も前だったか、最後に会ったのは……。いや、最後に会ったのは十年前のコレットの葬儀か。それにしても懐かしい。」
とりあえず覚えていてくれたことに安堵し、俺は一刻も早く話を進めようと思った。やっとストーブの前から立ちあがって、ドクターにの前に立った。
「ドクター、早速何ですが……この子、イアの目を見てもらえませんか?」
「目? なんでだい、症状は?」
と、ドクターが言ったところで、ドクターの横にいたキースがドクターにだけ聞こえるぐらいの音量で説明をしてくれたらしい。そしてドクターは一つ大きく頷いた。そしてイアの方を向いた。
「イア! こっちに来なさい!」
急に自分が初対面の人に呼ばれたことに驚いたのか、イアの肩がびくりと動いた。そして珍しく素直に立ち上がり、ドクターについて奥の部屋へ行った。俺とキースも、それに続いた。