瑞浪

五感


      


随分と昔だったかもしれません


彼女の爪は赤く 深く 派手な爪を
みてしまった私は
何かに執り付かれました
まるでそれ自体がどくであったかのように
色は私をどんどん侵食して行きました


いつのまにか
私は女の顔も名前も忘れ
ただ 女の爪が記憶に焼き付いて
ふとした瞬間に蘇っては
私を虜にするのです


あれから
どれほどの青空を 海を みても
あの女の爪は私を解放しません
あの禍禍しく 美しい色を
みてしまった あの時から

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