瑞浪

五感


      


ずっと昔にかいだことのある 安心する匂い
保健室のベッドのしっとりとした それ
母親の化粧水の それ
父親の煙草の それ
今の私にとって それらは異質のもの


あの人の匂いは香水の香り
それは ずっと前から知っていたのに
あの人がいなくなった時
私はなにもしらないことを知った
あの人そのものを なんにも知らないことを


テーブルに置かれた香水瓶は
私を 幸福にし
添えられた手紙は
私を 不幸にし
残された私は
私を 滑稽にさせたのだ

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