瑞浪

卒業の色

「『卒業の色は何色でしょうか』」
 一瞬、私とみどりは固まった。
「…、それ心理ゲーム?」
「今日の朝の占いで妹が見てたの。選択肢があるんだけど結果まで聞いてなかったし。でも卒業の色って何色のイメージある?」
「卒業の色…」
 声に出してみてもぴんとくる色がない。顔が上を向いている(これはみどりの癖で、面接練習のときも直らなかった)のでみどりもだ。この時期のお菓子のパッケージしか思い浮かばない。
「無難なところで、ピンクかな」
「私も。やっぱりさくら色」
 みどりはまだ上を、眉間に皺を寄せて睨んでいる。その間、私と奈菜は一言もしゃべらずにいる。奈菜はカフェオレのおかわりを貰い、私はパイを静かに食べる。時折かさっとか、ぱりっとか、ハムスターみたいな音をさせる。みどりは諦めた表情でうつむいて、
「…みずいろ、かな」
と呟いた。
「水色? その所以は?」
 二人分の疑問をみどりに投げる奈菜。
「んー、なんと言うか…。卒業式の後ってしばらくの間、みんな外に溜まってるでしょ? それって晴れてるから可能なんだよね。それで冬の空は薄い青だから」
「うーん、イマイチ納得できないかも」
 奈菜の一言にみどりはむっとしたのか、みどりの回答はさらに続いた。
「あとさ、卒業式の飾りも鳥が羽ばたいてるのが多いから、空をイメージする」
 今度は私たち二人が納得した。
「なるほど」「あ、それ分かるかも。確かに鳥多いよね」
 人の意見を聞くと、それが自分の意見も取り込んでしまう。すでに私の卒業の色は水色になりつつある。あ、そうだ! 空の色がありなら…。
「それじゃさ、虹色もありなんじゃない!」
 興奮気味で、しかも手まで叩いて私は二人に提案した。
「だって、よく虹をモチーフにした飾りもあるし! それにいろいろな将来や人生があるよってことで」
「ぶっ」
 噴き出したのはみどりで、釣られるように奈菜も口を開けて笑った。私はだんだんと恥ずかしくなってきた。口を押さえて笑うみどりは、「由希子らしくてすごくいいと思う」奈菜はお腹を抑えて、「欲張りだねー由希子って」
「……、なんかすみませんね。コーフンしちゃって」
 私はぬるくなったカフェオレを飲んで、やけになってパイを口いっぱいに頬張った。


 何年か経って、私とみどりはもう一度この話をする日が来る。それまで私たちは互いが知らないたくさんの経験をしていて、言えないことはずっと多く、重くなっている。
私はコーヒーを飲むようになり、みどりには恋人ができている。その頃にはドーナッツを食べる機会はぐんと減っていて、久しぶりにドーナッツ屋に行くところから、話が始まる。



あとがき
 はじめまして、瑞浪です。最後まで読んでいただきありがとうございます。最初で最後ですからあとがきを書かせていただきます。小説は何度も書いていますが、自分の反省というか構想というか…そういうものを書くのは初めてです。少し緊張(笑)しています。

 さて、今回の作品は今年の秋からずっと考えていたお話の序章的なものです。このお話では由希子が語り手ですが、みどりやその恋人がそうだったり、その他にも登場人物がたくさんいます。高校から大学卒業までのお話なので、すごく長くなりそうです。はたして想像で終わらずに済むかどうか…。ですがこんな風に形にできたことを含めて、やっぱり文芸続けてよかったなと思っています。

 私が文芸部に入部したとき、三年一名、二年五名、一年一名という状態でした。それを知ったときの衝撃は凄まじかった。廃部の危機が濃厚で、一番辛いのは同学年がいないこと……。しかし翌年に後輩ができ、友人が入部し、そして今年度も新入部員が! なんとか文芸部を継続できたことがなによりもよかった。楽しく緩くやってください。くれぐれも廃部がないように!

 一年生のときの小説を読むと、その酷さに笑えてきます。詩なのか小説なのか判断出来ないものも書きましたし。でも三年生になってなんとか読めるようになってきました。語彙や表現はまだまだですが(これは英語に共通しているところがあると常々思います)、進学後もどんな形であれ文芸を続けていきたいと思います。それでは、本当に最後まで読んでいただきありがとうございました。

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}