叉凪

青春を謳歌 女の子ver

 気を取り直して顔を向ければ、小龍包を一口でパクッと食べてもぐもぐ噛みながら満足気に笑う親友がいた。心底幸せそうに食べるその容姿は、男から見れば可愛いのだろう。女から見れば保護欲を掻き立てられる。しかしそれは黙っていればの話だ。この親友は喋って動くと時々すごく可愛くない。
 どちらにしても口にする気はさらさらないので、食べ損ねた玉子焼きを再度口に運びながら親友の言葉を待った。小龍包を飲み込んではぁと息をついて、横に置かれていたイチゴミルクに手を伸ばしながら親友は口を開いた。
「青春と言えば屋上でお弁当、恋バナ、サボリでしょ。青春三大項目だっ」
「サボリはぴったりだけど、恋バナは似合わないなー」
「うっさい。人に言われると腹立つっ」
「あっ!」
 私が冗談で笑うと、ムキになったし丹生は私の弁当の中からウインナーをつまみあげて食べてしまった。
「あぁ、取っておいたのに…」
「早いもん勝ち!」
ケラケラといつもの顔で笑う親友は、どうやらタコさんウインナーで機嫌が直ったようだ。

 イチゴミルクを飲みながらストローをかじっている親友を横目に見て、今更ながら腕時計に目を向けた。予鈴まであと2分もない。今すぐ片付ければ授業には間に合う時間だ。
「ねぇ、そろそろ時間だよ」
「いや、まだ青春を謳歌してないし」
「時間ないし、また明日だね」
「ダメ!」
 突然立ち上がった親友に驚いて見上げれば、まさに腕を組んで仁王立ちしている。眉間に皺がよっているあたり、本気かもしれない。
もう一度時計に目を向けて溜息を零すと、降参とばかりに両手をあげた。
「わかったから。何、次はサボリ?」
「その前に恋バナ」
「はいはい」
 授業まで残り1分もないのに恋バナなんて、どう考えてもサボリが先になるだろうに。どの道、親友曰く青春三大項目は無事達成されそうだ。

 恋バナと言ったわりに思いつく話がないのか、うーんと唸ったまま大胆に広げた足をぶらぶらさせた親友を横目でちらりと見て、私は再び溜息をついた。
「バレンタインとか? 季節的に」
「あ、そっか。その手があったか」
名案とばかりに漫画のように手をポンッと叩くと、鞄をあさりだした。首をかしげてその様子を見ていれば、違う違うと呟きながら片手ほどの大きさのポーチが数個投げられた。そして5つ目のポーチを手にしたとき、喜びの声があがった。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「…チョコ? なんで持ってんの」
「常にある程度のおやつは持ち合わせています」
 そう言って先ほど放り投げたポーチを手に取ると、次々とチャックを開いて逆さにする。飴、グミ、ガム、そういった細かいお菓子が屋上の地面に色とりどり広がった。私は親友の意外な持ち物に驚きつつ、その中から透明な包装紙に包まれた掌サイズのチョコに手を伸ばした。
「ありがたく受け取るわ」
「お返しは3倍と言わず、袋で返してね」
「絶対おかしいって、それ!」
「何言ってんの。常識だよ、常ー識」
 ケラケラと悪びれる様子もなく笑う親友につられて私も笑った。チャイムが鳴り終えた気もしたが、もうそんなの気にならない。


「さて、と」
 一通り腹を抱えて笑い終えた後、親友は立ち上がってスカートを軽く2、3回掃うと両手を両手をあげて大きく伸びをした。それから私にいつもの人懐こい笑顔を向けてケラケラと笑う。
「青春三大項目ラストー」
「多分もうやっちゃったけどね」
「細かいことは気にしない」
私も立ち上がって隣の親友に笑顔を向ける。多分今私はニヤニヤと笑っているだろう。
 レジャーシートを綺麗に折り畳んで、出していたものも全て鞄の中に詰め込む。こんなつもりじゃなかったから、机の中に入ったままに教科書の分いつもより軽い。
 一度お互いの顔を見合わせると、示し合わせたようにドアへと走り出した。

「ここはやっぱメジャーにゲーセン?」
「え、ここはマイナーに川で語り合うべきじゃない?」
「寒っ」

end

唐とがき
 こんにちは、叉凪(さなぎ)です。どういう心の心境か、後書きを書いてみることにしました。多分余白があまりに多いからですよ。え、いつも多いって? 気のせいですよ。
いつも謎のなのが、段落の最初の一文字空けることですよ。会話の後は? 段落っていつ変わんの? 毎回の謎。

 青春を謳歌ってちょっと憧れます。大体うちの学校、屋上開いてないよね。あれか、自殺する人が出てくるからか。(違)ホント切実に行ってみたいわー。
 まだまだ続くぞあとがき(笑)
次の玉露か春号当たりにこれの男の子verを書く予定。そっちの方がきっと口悪くなるよ。男の子は元気でなんぼだ。
 先輩方、卒業おめでとうございます!

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