叉凪

青春を謳歌 女の子ver

 『青春をオー歌してみようか』
授業中に突然後ろの席から飛んできた紙くずを開いてみると、そんな言葉が書かれていた。


 退屈な国語の授業が終わり、先生が去った教室内はガヤガヤと騒がしい。みんな思い思いの友達の席へと移動していく中で、私は後ろにいる親友へと体を向けた。
「で、さっきの手紙は何?」
「……何が?」
「…」
まるで白ヤギさんからの手紙状態だ。私の声に今起きましたと言わんばかりにむくりと起き上がった親友は、寝惚けた目を両手で擦りながらとぼけたことを口にした。
手紙を読み終わった直後に当てられた私としては、その親友の態度にはいささかカチンとくるものがある。
「だから! 授業中に手紙、投げたでしょうが!」
「……あぁ、あれね」
「何が青春を謳歌だ。大体謳歌くらい漢字で書け!」
「書けんの?」
「なめんなっ」
 馬鹿にしたような薄笑いを浮かべてシャープペンを差し出してきた親友のノートにわざとでかでかと書いてやる。ノート1ページに大きく書かれた“謳歌”の文字は、まるで書き初めのようだ。
謳歌と書かれたノートを目を輝かせながら見つめる親友に今度は私が得意げになって笑ってやった。
「どうだっ、まいったか!」
「いやいや、うちの脳みそがスカピョンピョンなだけだから」
「本気で頭大丈夫?」
「平気平気」
 カラカラと愉快そうに笑うのが、この親友のくせだ。
なんだか話がずれてしまっているのはいつものことで、結局“青春を謳歌”はいつもより早く来た厳しい先生のせいで昼休みへと持ち越しになった。



 4時間目終了のチャイムが鳴ると同時に終わった授業に親友が嬉々と起き上がる。
「よく寝た〜っ」
「毎時間寝てない?」
教科書を片付けながらすぐ後ろでのびをしている親友に声を掛けた。毎時間寝ているこの親友は、しかし当たるのと同時に起き上がるという生命体だ。しかも間違えない。彼女の脳みそはスカピョンピョンなどころか味噌たっぷりに違いない。

 親友の机の上はついさっきまで枕になっていたためか、一切の教科書がない。片付ける必要も無い机から離れると素早くスクールバックを手に取り、軽い足取りで私の横に立った。鞄の中からお弁当だけを取り出そうとしていた私は親友のいつもと違う行動に少し首を傾げた。親友は私のほうをじれったそうに見て、小さく唸ったかと思うと私の手を掴んだ。
「ほら、青春を謳歌しに行くぞ!」
「え、今から? お昼ご飯は?」
「だから青春を謳歌するんだって!」
そう叫んで私の手を掴んで走り出した親友に、私は大人しくついていくしかなかった。しっかりと私にも鞄を持たせているあたり、やはり彼女はちゃっかりしている。

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