梔子いろは

スリーステップ

注・この小説には読む人が読めば不快になるかもしれない私の三年間がここぞとばかり詰まっています。趣味から何からとにかく三年のキセキ…間違った軌跡です。ここまで読んで嫌な予感を感じた方はそっと他の部員さんが書かれた素晴らしい作品の方にワープしてやってください。というか、私も書く前から激しく嫌な予感しかしてません(にっこり)。


Step.3

「それで、彼女とはうまくいってるわけ?」
「うまくいってたらこんな風になってないっすよ、先輩」
 二つの金髪頭が、向かい合って座るカフェテラスの一角で片方がふぅと溜め息をつく。それを見てからかうような笑いを零すもう片方の青年はアイスコーヒーを一口すすると遠い眼をして言った。
「女なんてさ、みんな手籠めにしたら早いって。そんなに悩むことないと思うけどなー。ねぇ」
「あんたと一緒にしないで下さいよ。つか先輩だってホントに好きな子にはやらない癖に。なんすかその二面性は」
「こんなことリジィの前で言ったら嫌われるだろ。」
「リジィさん完璧だまされてるっすよね。忠犬の皮を被った獣ですか先輩は」
「それを言うならお前もだろ。っと、じゃーなー。彼女さんとお幸せに」
 悪戯っぽく瞳を輝かせながら、彼は立ちあがって通りの向こうに消えていった。きっとこのあと彼女さんと会う約束でもしているのだろう。年上の麗しい女性を思い浮かべていたところに、軽快な音楽が鳴り響いた。この着信音は話題に上っていたオレの彼女のものだ。ベビーブルーの麗しいロングヘアと柔和な笑顔を思い出して自然と頬が緩む。今日はどんな花を買っていってあげようか、なんて考えながら携帯電話を取り出し通話ボタンを押した。
「もしもし? 璃璃亜?」
『こんにちは。ひょっとしてお仕事中でしたか?』
「いーや、休憩中。それよりどうしたの突然?」
『……声が、聴きたくなったってだけじゃだめですか?』
「待ってて。今からバイク飛ばしてすぐ向かう」
 可愛い彼女の可愛い声に甘えられては電話だけじゃ物足りない。返事も聞かず愛車にキーを突っ込み道路を規定ギリギリのスピードで突っ走る。街角のマンションの一室の前に立ってベルを鳴らした。少し経って、出てきたのは愛しい彼女。今日は大きな牡丹の飾りをあしらったカチューシャをしている。来る途中で買ってきたバラの花束を贈った。照れながらも受け取ってくれた璃璃亜にキスを送って部屋にあがらせてもらう。ふと目に付いた何故か玄関にある筆箱。触ろうとしたらキツい叱咤が飛んできて思わず身を竦ませた。
「それは駄目っ!」
「ご、ごめ……」
「私こそごめんなさい……! でも、危ないから触らないでくださいね。贈り物なんです、それ」
「ふうん、そうなんだ」
 危ないというからには、中に割れものでも入っているのだろうか。それ以上言及してほしくないと暗に彼女が言っているのを察して、見なかったことにした。璃璃亜について歩き、リビングまで案内される。本当は何回も通っているので分かっているのだけれども、そこは彼女の好意を無駄にできない。温かい紅茶はアールグレイ、最近ハマっていると言っていた例のお茶なのだろう。あの二重人格の先輩の彼女と仲良しらしく、その彼女が紅茶好きなのに影響を受けたということだ。それにしてもあの先輩にあの美人はもったいなすぎる。鴉の濡れ羽のような漆黒の髪と宝石のような瞳を思い出してそっと首を振った。その様子を見ていたのか、璃璃亜は不思議そうな顔をする。
「どうかしました? すごく変な顔してますよ」
「すごくってそんな……! オレちょっと傷ついた!」
「ウソです。今日もかっこいいですよ」
 うっかり、ときめいてしまったことは言うまでもない。あまりデレない彼女が珍しくデレたのだ。しかも、不意打ちで。ときめくなって方が無理だろう。表情も声も色々誤魔化しが利かなくなって、慌てた態度を取りつくろうと「紅茶美味しいね」とベタなことを口走ってしまう。それでも優しい彼女は微笑みながら答えてくれた。
「リジィさんが教えてくれたんです。これは美味しいよって」
「へー。そういやこないだも一緒に買い物行ってたっけ?」
 リジィ、というのが偉大なる恵比須先輩の彼女のあだ名である。ちなみに先輩に聞いたのだが本名は教えてもらえなかった。彼女、生粋の日本人のはずなのにどうやったらそんなあだ名になるのかが分からない。名前の想像もつかないため、今では考えることも止めてしまった。『リジィ』で不便がないのだから別にいいかな、なんて。璃璃亜に寄りかかるようにして淡い色の髪に鼻を埋める。やたらと甘美に感じる香りに満足しているとくすくすと降ってくる笑い声。あぁ、この感じ。超おうちデートって感じでいい。
「そういえばさ、こないだ一緒に歩いてた亜麻色の髪の女の子って後輩?」
「せんくん、目移りですか?」
「違うって! 誤解! こないだハンカチ拾ってもらってそんで」
「それで、私というものがありながら一目惚れしたと」
「なんでそーなるかなーもう!」
「……冗談です」
「全然冗談に聞こえないんだけど。そうやってまた家出するんでしょ」
「私はちゃんとせんくんのこと信じてますもん」
 言いながらも完璧に顔は拗ねている。ああめんどくさいことになった、と蒼い頭を抱きしめてやってよしよし撫でてやればきゅっと背中の余り布を掴む小さな手。愛おしく思って体ごと抱きしめて耳元で囁いた。
「今日って、付き合って一周年記念日なんだよ?」
「……知って、ました」
「覚えててくれて良かった」
 柔らかく微笑んでやればはにかみ返してくれる端正な顔。ミルキーブルーの髪をそっと撫でてやって、小さく、小さく言う。
「お祝い、しよっか」
「……はい」

シャンパンと、ケーキと、バラの花はその日を祝う大切な――。



《今一番好きな君たちへ》
(来年も再来年も、こんな風に祝えたらいいのにね)

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