梔子いろは

スリーステップ

Step.1

「ねーねー、今日はカテキョのバイトないのぉ?」
「なかったら悪ぃのかよ」
「べーつーにー」
 亜麻色の頭は「面白くない」と言わんばかりにふいっとそっぽを向いた。テレビを見ながらみたらし団子をほおばる姿をキッチンから眺めて頭を抱える。……誰だ、こいつをあんなに我が儘に育てた奴は。八歳も年下の少女の後ろ姿に将来の危機感を覚えて溜め息をついた。まぁ、大学に通っているだけまだましか。本気でニートになりかけていたのを無理やり思いなおさせてやった遠い過去の自分を褒めてやりたい。全力で。食わせてやる晩飯をこしらえたところで、カウンター越しに声をかけた。
「お前なぁ、人ん家なんだからもうちょっと遠慮というものを知ったらどうだ」
「いいじゃないですか。もう何年付き合ってると思ってるんで?」
「……四年?」
「ぴーんぽーん。正解でーす」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってるか?」
「さぁ?」
「あっそ」
くつくつといやらしい笑い声を零した少女は「無礼講無礼講」と言いつつビールのプルタブを開ける。それを見て慌てて止めに入った。まったく、少し目を離すと何をしでかすか分かったもんじゃない。
「あー! 何すんだよクソ平子」
「未成年は飲酒禁止だバーカ!」
 蓋を開けてしまったビールに仕方なく口をつけて膨れる腹を忌々しく思った。少し痩せようと思って飲食は控えていたのだがこれでは台無しだ。そんな考えと反してつまみを探しに冷蔵庫を漁る。冷えた枝豆を発見。こりゃちょうどいいとばかりに取り出し、ふさがった両手の代わりに足で冷蔵庫の扉を閉めてリビングに戻る。クイズ番組の回答に夢中になっている少女の横を陣取って、その華奢な肩に頭を乗せた。
「……なんですか。重いんですけど」
「オレも頭がぐらぐらするわ。お前なで肩?」
「失礼な人ですねぇ……」
 悪態をついた割にはそれ以上文句を言わなくなったので、不審に思って相手の表情をうかがう。綺麗な亜麻色のショートカットと蘇芳色の瞳に思わず目を奪われた。性格の悪さはともかくとして見目はいいんだよな、こいつ。枝豆をひとつ、またひとつとつまみながらそう思う。気づいたらずっと付かず離れずの関係だった。いつも右隣を歩いているのはこの少女で、年齢差さえもいつのまにか気にならないほどに、それくらい大切な存在になっていた。
「なぁ戀。いっそもう嫁に来ちまえよ」
「やですよこのロリコン」
「よぉし表出ろクソガキ」
 ぐぎぎぎぎ、と押し合っているうちにもつれもつれて二人してベッドに転がった。それがおかしくってそのうちにどちらからか漏れるクスクスという笑い声。この声を、笑顔を何より守りたいと思うその感情こそが―――。



【好きになって四年、ずっと傍にいてくれた】
(これからもよろしく、と言っていいのでしょうか)

Happy Finale !!

【後書き】

初めての方ははじめまして、何度目かの方はお久しぶりです。この名前を名乗るのもついに最後になりました、梔子いろはです。実はこの原稿で、三年間の原稿提出率は念願の百パーセントです。やったね! しかし最後の小説がこんな具合でうふふな感じになるとは……ネタがないって怖いですね! 趣味突っ走っちゃった。
一・二・三年生の時に好きなものを書きなぐってみました。ま、数多くあったのですがそこは独断と書きやすさからチョイス。反省も後悔もしてるけどきっと後には活かせない感じ。残念☆
文芸部には正直掛け持ちしてた部活の方が忙しくてあんまり顔を出せませんでしたが(しかも原稿に割いてる時間もあんまりない)、それでも自分なりには頑張って原稿を出し続けてきました。正直楽しい思い出より悔しかった思い出の方が多かったりしますが、それも今となっては笑い話です。私もきっと若かった! この部に在籍していたおかげで、期日に追われるという貴重な体験をさせていただきました。この経験を生かして今後の活動を頑張ろうと思います。うまくいったら本とか出てるかも。通常の書店では買えないのであしからずですよー(にぱー)。
ええと、一応これからも小説は書き続けていくつもりでいますー。幸いにも大学で日本語の勉強ができるので、これを機に語彙力・表現力身につけたいと思います。……目標?(笑)
あぁ! キャラ設定とかいろいろあったのに全然語るスペースがなさそうっスね! せっかく一生懸命資料集めたのに……。入れようと思ってた挿絵はそのうちブログかなんかにあげたい。このままじゃ私の作業時間が報われない。NANTEKOTTA\(^o^)/
 最後になります。存在感のなさすぎる三年生でしたが、それでも仲良くしてくれる後輩の皆さま、同級生の皆さまありがとうございました。そして顧問の松橋先生、いつも文芸部を温かく見守ってくださってありがとうございました。 それではまた、機会があればお会いいたしましょう。

二〇一〇・二月二十四日   梔子いろは

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