―二月十四日
案の定、学校の女子生徒たちは、入念に包装されたチョコレートを持ってきている。
今日が告白するタイミングとばかりに。そんな女子生徒がいれば、
教師たちは、鋭い目つきでそれを制して、チョコレートを没収するものだ。
そんな教師たちの収穫になりかねる危険を冒してまで、
彼女たち・・・もとい恋する乙女は、チョコレートを持ってくる。
「なんで・・・今日に限ってお前は休むんだよー佑也ぁー。」
これで十四個目だ。女子からチョコレートを貰ったのは。本来ならば、もの凄く嬉しいことだろう。
だがしかし、これら紙袋に入っているチョコレートたちは、おれ宛じゃあない。
「ねぇ、凪くん。凪くんって、佑也くんと仲良いでしょ?
悪いんだけど、これ佑也くんに渡してもらえないかな。」
こんな依頼に、おれは何度も断った。
だって、バレンタインだけがチャンスな訳じゃないだろうし、
しかも、告白っていうのは直接した方がいいに決まってる。
「佑也に直接渡した方がいいと思うよ。」
そう優しく微笑みながら言っても、こう否定される。
「今日じゃなきゃだめなの!でも、家まで行って、『ウザイ』とか思われたくないし・・・だからお願い!」
実際、こんな依頼程、嫌なことはない。だって、チョコレートが大好きなのに・・・、
おれは食べられないなんて・・・畜生・・・。
佑也に届けてあげんだから、おれにもなんかくれ!義理チョコくれ!
でも、恋に必死になっている彼女たちは、おれに気を使うこともせずに、そのまま、浮かれながら去っていく。
おれは、こうやって、彼女たちにいいように使われていた・・・。
結局、おれはチョコ一つもらえずに、年に一度のバレンタインデー・・・二月十四日の学校生活を終えた。
今日一日で貰ったチョコ・・・その他諸々の数、二十七個。
その中で、本命は推測するに・・・、十五個。でも、それらは全て佑也のものなのだ・・・。
そんな、下がりに下がったテンションの中でおれは佑也の家へと向かう。