かねて

バレンタインデー恐怖症

―二月七日
世間ではバレンタイン一週間前ってこともあってか、 近所のショッピングモールの店頭では、色とりどりのラッピングが施されたチョコレートが並べられている。 そんなバレンタイン一色に染められた店頭には例年通りに老いも若いも、 女性が群がっているのである。そんな光景を男たちは遠目に見ているのだ。
「今年は一個くらいもらえるかな。」とか
「女共は例の如く、製菓会社の陰謀に嵌ってるな。」とか思いながら。
まあ、それらは、もらえない人間の嘆きであって、おれもその、もらえない人間の一人な訳で。
こんなバレンタインは、日本全国どこへ行っても繰り広げられているだろう。
「なー、佑也ーどうよ、あれぇー。あれ見ると、嫌になるんだけど・・・ あんなにチョコレート買う女の人たちがいるのに、おれは一個も貰えないんだーとか思っちゃってさぁ? 別に、誰かに告られたい・・・とかそんなんじゃないんだけどさ?」
男にしては、ちょっと小柄で、顔も頭も平凡なおれは、 クラスの・・いや、恐らく、世の女性陣の恋愛対象じゃない。
「ただのこの時期の日本の風物詩だろ。見なけりゃいいんだよ。あんな騒々しい光景なんて。」
「いいよなーモテる奴はー。あー、チョコレート欲しいー食いたいー高級チョコレート!!!」
さっきの、おれの言葉は、別に強がって言ったわけじゃない。 俺は『告られたい』訳じゃなくて、『チョコレートが欲しい』のだ。
「普通は『女から』チョコレートもらいたいって言うのに、変わってるよなお前。
チョコレートくれるなら誰でもいいんだろ?」
「うん?別に義理でも構わないし!」
「ほんと・・・変な奴。」
そう何度も変な奴って言われてムカつかないわけじゃない。 『変な奴』そう言われて、おれは頬を膨らませた。

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