真崎珠亜

俺とお前の腐れきった縁(えにし)

 ―――――――――笑った。
あの天神尊が多分演技ではなく、心の底から優しい笑みを浮かべたのだ。きっとこんな顔は彼の家族でさえ見たことが無いだろう。
「…………どう、いたしまして。天神尊」
笑顔と共にそっと差し出された手をおずおずと握り返す。男のくせに滑らかで華奢な手の感触がした。
「……マジで、サンキュな」
天神がそう言った瞬間に、ほんの少しだけ握る力が強くなった気がした。
 あぁ、これで本当にコイツとはお別れなんだな……。
ぼんやりとそんな事を思った。さっきまで当たり前のように罵っていたのにしばらく、いや永遠にかも知れない、出来なくなってしまうのだ。
 最初は、とっととこんな下郎との友情関係なんて無くなってしまえばいいと思っていた。だから嫌われるように、呆れるようにコイツに対して罵詈雑言をかけまくった。そうすればこの男から解放されると思っていたのだ。それなのにコイツは楽しそうにその酷い言葉達を聞いていた。そうしてそんな俺の何処が気に入ったのか、いつも隣に置いていたのだ。
 最初は本当にただの迷惑でしかなかった。信者は怖いしうるさいし、コイツはコイツでいつも裏では問題ばっか持ってきやがった。
それなのに、付き合いが長くなる程にコイツの隣が俺の定位置に、一番心安らぐ場所になってしまっていた……。
 もう一度寂しいか寂しくないかと問われれば、寂しいとは思わないだろう。しかし、果たして寂しくないときっぱりと言い切れるのだろうか……?
「…………の、」
「?」
 そんなおかしな事を逡巡している内に、無意識に声が出てしまった。天神は手を握ったままきょとんとした顔をしている。
「携帯の番号、変えたら絶対教えろよバカ!!」
 一気に、早口に。
まるで叱咤するかのように怒濤の如し勢いで捲し立てた。
一体何を口走っているんだ俺は!?
「……っ! あぁ、勿論!」
 子供のような笑顔で、とても嬉しそうに。
驚いたように目を見開いてから、顔を紅潮させて笑った。
まるでただの小学生じゃねぇか。
そんな、くしゃっとした笑い顔を見て、そんなこと思う。
 ―――――――ありがとう、天神尊。
そんなことは例え口が裂けたって言えやしない。死んだってこんな男には言ってなんてやらないつもりだ。
握られた手に、今度は俺の方から力を込める。三年間分の感謝と、同じだけの恨みを込めて。
「すだっちゃん? 痛いんだけど。……かなり」
 天神が少し苦そうな顔をして言ってきた。
「喜んで受け取りやがれ。俺の三年分の思いだ」
「うわーい。すんごく痛ーい…」
 にっこり笑顔で返してやった俺に、げんなりとした言葉を発す。…もう少しありがたそうに受け取れよな。
「さて、別れの挨拶も済んだことだしそろそろ行くか」
ぱっと手を離して立ち上がった天神は、バンバンと制服に付いた埃を乱暴に払いながらそう言った。
もうそろそろ家に帰るのだろうか。俺も少し教室に長居しすぎた。名残惜しくなってしまう前に帰ろう……。
「……これから俺様の門出を祝してみんなで祝賀会やるんだけど、勿論お前も来るよな? ……ま、答えは聞かないけど」
 最高に最悪な不敵な笑顔で、天神はその手を取れと言わんばかりに俺の目の前に差し出してきた。
「阿呆かこのナルシーめ。つか強制かよ」
「ったりめーだろ? 親友なんだから」
「……誰が親友か」
そう言って俺は差し出された手を取る。少しだけ冷たい手、最初に握ったときもそう思った手。……変わらない手。
大バカ野郎
 小さく、本当に小さな声で俺がそう言うと自称俺の親友はまた、とても嬉しそうに笑ったように見えた。



あとがき
 前号の『Noel』又は月刊部誌『玉露』を読んで下さった方はお久しぶりです。今回が初めての方は初めまして。真ア珠亜です、おはこんばんにちは。
 さてさて今回は卒業号ということもあり、卒業ネタ。考え方が安易すぎるでしょうか……。
……相変わらず馬鹿丸出しの文章ですいません…。
 男の友情なんて分からない!!(おい
 というわけで、ひねくれ者でかなり意地っ張りな俺こと巣立諒透君と、腹の中は真っ黒な超出来杉男の天神尊君の凸凹コンビによる爽やか…? な、卒業とお別れのお話。楽しんでいただけたのなら作者冥利に尽きるというものです。
 前回はかなりはっちゃけすぎてしまったので今回は少し控えめにしてみました、会話文ばかりで少しつまらないやもかも…。ま、私の表現力不足なのでその辺は笑って許して下さい。
 出来ればこの凸と凹の出会いも次号に書きたいかな、と思っておりますが予定は未定。……またかなり長くなってしまいそうですし…。
多分この二人の腐れきっている御縁は一生切れずに繋がっているんでしょうね。寧ろ例え切れてしまったとしても天神様がせっせと繋ぎ直すと思います。諒透のことお気に入りですから。多分爺ちゃんになっても言い争いそってそうな気がします(笑
 今回は小ネタはほんのちょっとしかありません。これも前回やりすぎた反動です…。今回は至極真面目に書いたつもりですがどうでしょう…?(知るか
 あと最後の台詞の空欄は印刷ミスじゃありませんよ。諒透の声が小さすぎて聞き取れなかっただけですよ?
はてさて、彼は最後に一体何と言ったのか。それはご想像にお任せします。でも「ありがとう」ではありません。そんな素直な言葉は諒透には言えません。彼は意地でもその言葉だけは墓場に持って行くのでしょう。本当に素直じゃなくて意固地が強くて頑固者です。
 前回同様文句苦情がある方はレッツゴー図書室。多分遭遇出来ると思います。
 ここまで読んで下さってありがとう御座いました!
 また次の機会にも、お会いできたら嬉しいです。

    2008年2月10日 真ア珠亜

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