魅闇美

ドア

そうして私の冒険は幕を閉じた。
一晩寝ればいつもの朝がやってきて、昨日終わるはずだった人生がまた始まった。いつもと変わらない朝食が美味しくて、お母さんにばれないように鼻水を垂らした。生きているのが恰好悪く感じたけど、もともと恰好悪い生き方してたんだから今更どうでもいい。
私は家出した後も引き籠りだった。劇的な出来事があったからって、いきなりライフスタイル変えることは無理だし。けれど部屋に引き籠っても1人じゃないんだって思えるようになっていた。

ベッドや机などの家具に囲まれた6畳半のスペースが私の居場所だった。引き籠って私はこの空間で趣味に没頭して、親と喧嘩して逃げて、腹を立てて物に当たって、いっぱい泣いて、嫌なくらい悩んで、絶望したり死のうなんて考えたり、葛藤したり、そっと笑ったり、色々、した。

そんな部屋も今日でお別れだ。
あんなにごちゃごちゃと置いてあった雑貨は、段ボール箱の中に眠っている。もうすぐしたら引っ越し業者が来て荷物を運んでしまうだろう。お気に入りのカーテンが風になびいて揺れている。
新しい家ではサイズが合わないから泣く泣く置いていくことにした。
お父さんとお母さんに話した。今まで育ててくれてありがとうなんて堅苦しい挨拶はしなかった。どーせまたすぐに帰ってくるんだし、いってきますとだけ伝えた。だから心残りはないはずなんだけどね。

両親に反発して家を出たあの日。
痛々しい思い出がいっぱいの部屋が嫌いで、早く家を出たいと考えた日。
だからようやく念願が叶う喜ばしいこの日。

もっと親から反対されると思ってたのにな。なんだかんだで愛着の湧いたこの部屋を、自分から出ていくって決めた。そのこと自体信じられない。出ていきたくても変化を恐れる臆病者の私は、文句を言いつつ傷つくことのない安全な檻の中にい続けるはずだったのに。出たい出たいと願い続けて出なかった過去の私と、出たくない気持ちを押し殺して出ていく今の私。なんだかおかしくてたまらない。

引っ越し業者がやってきて荷物を運んで行った。今度は私が移動しなきゃならないなんて解ってる。部屋を振り返ると荷物がなくなったせいかとても広く感じた。この部屋の間取りも思い出も忘れない。

ドアの取手が冷たかった。

開けたら最後。閉じて終わり。


嗚呼…
あんなに出たくてたまらなかったこの場所から、こうもあっさりと出られるとは思ってもみなかった。

あとがき

今回の作品について言い訳なんかしても、どうせ最後なんでスペースも勿体ないししません。
一言だけ言っておくと「こんなはずでは…っ!」

ファンタジーをもっと書きたかたっという未練をここに記しておきます。
私はこれで満足だ。

あとはお別れのあいさつにします。そうといっても日記で長々と痛いこと言いまくったので、こっちでは簡単に済ませます。

顧問の先生へ、部活の域を飛び越えるほどお世話になりました。受験の時も大会の時も色々ありがとうございました。まぎれもなく特別な先生でした。

一年生へ、大会の当番校になって大変だと思うけど少しうらやましくもある。もっと一年生の作品読んだり交流したかったから残念です。せっかく女の子の後輩できたからなでくりまわしたりしたかったんだけど。自重しておきました。文化祭で遊びに来たら構ってあげてください。

二年生へ、私が女でごめん。
先輩に一人くらい男がいた方が意見とか言いやすかっただろうし、もっと仲良くできたかなって思うんだよね。なにかと我慢させてた部分とかあるかもしれない。ないかもしれないけど至らなかった部分があるかもしれないからごめんねって言っておく。
来年新入生に男の子が入るといいね。文芸部に男の子って珍しいけど。うん、君たちが入ってきて先輩がどれだけ驚かれたことか。嬉しかったんだよ。

三年生へ、一人一人に対して小説創れる!私視点の一人称で創れちゃうよ!気持ち悪いからしないけどさ。それくらい思い出とか伝えたい気持ちがたくさんある。君のどんなところが好きであのときこうだったから私はなんとか〜って気持ち悪いな私。三年生のみなさん、別れたくないからこれからもよろしく。

私の作品を今まで読んでくれた人に対しても言っておきます。本当にありがとうございました。
特に私が誰なのか分からずに読んでくれた人にはお礼を言いたい。

寂しくなったら過去の作品読んでください。

これにて高校生活の文芸活動終了。

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