東雲

泡沫の物語

黒曜を連れて森を出ると、空き地の入り口付近に村人が集まってきていた。
その中には子供達の姿も確認する事ができた。おそらく光の柱を見てきたのだろう。
二人の後ろにいる黒曜の姿を見て、慶さんは口を開いた。
「おい、お前達、何故そいつを生かしている!」
その後ろの方からも、同意の罵声が飛んでくる。
「依頼を遂行しろって言ったって、鬼なんてどこにもいねぇよ」
奏が馬鹿にしたように言う。
「後ろにいるじゃないか!」
「あぁ、黒曜は本当は貴石なんだそうです。鬼の姿をしていた方が禍も油断するだろうと思って変装していたみたいですよ」
千早は、ほら、と先程取れた角を村人の眼前に掲げた。
「だったら、何故俺達に黙っていたと言うんだ?」
「それは、貴石だと知ったら貴方達が怖がらず、鬼ではない事を勘付かれてしまうからですって。敵を騙すには味方からというでしょう?」
「なっ・・・!」
嘘八百を言い始めた二人に、黒曜は口をただ開閉させる。その間にも二人は適当な嘘を言い続け、次期村長の慶を納得させてしまった。
「黒曜さん、すまなかったね」
先程まで怒鳴っていた慶さんが、笑みを浮かべて黒曜を見た。いや、村人全員が笑顔で黒曜を見ていた。
「それでは、私達はこれで失礼します」
「ああ、ありがとうな。幌馬車は村の入り口で待たせてある。報酬はもう積んであるよ」
「分かりました、ありがとうございます」
剣呑な雰囲気が無くなったのを確認し、二人は歩き出す。後ろから黒曜の制止の声が聞こえたが、振り向かず、静かに手を振った。


恩人の背中が遠ざかっていき、やがて建物の影に隠れたのを黒曜は見つめ、口を開いた。
「次期村長、我はあの者達について行くことに決めた」
その発言に、村人がどよめきだす。
「何故だ?今まで酷い仕打ちをした事を怒っているのか?」
「違う。この村には四神の像があったはずだ。あの像を大切にしていればこの村は安全だと判断したからだ」
まだ角が生えていなかった頃、一度だけ見たことがある。 とても正常な気を帯びているから、あれがあれば、禍は村に入ってくる事はできないだろう。
「それではな」
最後に子供達の頭を撫でてやる。その顔は今にも泣きそうで、少し心苦しい。
「本当に行くの?おれたちの事、きらいになったの?」
「そうではない、我にはやらねばならぬ事ができたのだ。いいか、恨みの心は禍を引き付ける。すぐに人を恨んではならぬぞ」
「・・・分かった。言いつけを守るから、また会いにきてね」
「ああ、必ず会いに来る」
笑顔でそう言い、村人たちが見送っているのを後目に、黒曜は先に行った二人に追いつくために走り出した。


それとほぼ同時刻、幌馬車のもとに到着した二人は荷台に乗り込むと、御者に「玄永まで」と言い、馬車はゆっくりと動き出す。 それからすっかり汚れた外套を脱ぎ、新しい外套を羽織った。昨日の昼から御飯を食べていないので、早速食料に手をつける。
「疲れたな」
「うん、鬼を貴石に変えるなんて大仕事もしたし・・・黒曜、村の人達と仲良くやっていけると良いね」
千早はそう言いながら、村のほうを見つめる。すると、何者かがこちらに向かって走っているのが見えた。
「え、黒曜!?」
黒曜は急いで荷台に飛び乗る。息切れした顔は真っ赤になっている。
「お前・・・何で」
奏の隠し切れない動揺が声からにじみ出ていた。
「あの村に出た禍は、我しか狙っていなかった。安全も確認してきた・・・恩返しに来たんだ。
お前たちの旅の目的は何だ?我にできる事なら協力しよう」
荒い息を整えながら、黒曜は二人に尋ねる。二人は顔を見合わせて、一拍おいてから口を開く。
「・・・・・・私達が旅をしている目的は、私の故郷を滅ぼした吸血鬼を封印するためよ。 倒すのではなくね。それでも協力してくれる?」
千早はじっと黒曜の目を見つめる。
「倒すのではないというのが千早らしい。協力しよう」
「一応言うが、千早の命令は結構キツイぞ」
「構わぬ」
笑みを浮かべ、黒曜はそれを受け入れた。
「ありがとう、黒曜」
三人を乗せた幌馬車は、賑やかに村から遠ざかっていった。

(終)

*あとがき*
 はじめまして、東雲といいます。
この話は洋風ではないファンタジーを書こう、と思って書き始めたのですが、
英語を使ってはいけないという事くらいしか守れていません・・・こんな拙いものを部誌に載せて良いものかうか。
次はもう少し上手く書けるように頑張りたいと思います。
締め切りギリギリですみませんでした!

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