東雲

泡沫の物語 ‐弐‐

「風よ我が元へ集まり邪悪なるものを滅ぼし給え――烈!」
目を開けていられないほどの風が吹き荒れ、風が止むと同時に禍が一斉にがたがたと震え出し、砕けた波のように霧散していった。
「凄い・・・」
《おい》
あんなに力強かったものが、いとも簡単に消滅してしまった。その事実に唖然として、奏の呼びかけに気づかなかった。
《千早》
「・・・・・・」
《おい、千早っ!!》
「うわぁっ!な、ななな何よ奏、驚かさないでよ!」
いきなり頭の中で叫ばれたものだから、驚いて肩がはねてしまった。まったく、心臓に悪い。
《何、じゃねぇ!解放状態を解け、お前の体に負担がかかる》
「うん、分かった。・・・・・・・・・で、何すれば解けるの?」
返事をしたものの、そういえばどうすれば解けるのかを聞いていなかった。聞きっぱなしで、何だか申し訳なくなってくる。
《白晶封印って言えば言いだけだ》
「白晶、封印・・・?」
一言一言噛み締めるように言うと、解放状態が解け、元に戻った。奏も目の前に現れ、奏の髪と瞳も元に戻っていた。
「お疲れ。それで、これからどうするんだ?」
奏は村に戻るのかと聞いているんだろう。私は一度人身御供として送られた身であり、しくじりは赦されない。 村へ戻ったなど以ての外、とんでもなく怒られるだろう。それでも。
「一度、村に戻って荷物を取ってくる。旅でもしようかと思うの。前々から色んな場所を見てみたかったし・・・駄目?」
「いや、別に良いんじゃないか?俺は千早についていくだけだ」
「けど、やっぱり怒られるのは怖いんだよね・・・」
いくら自分が真実を話そうと、相手が多数では信じてもらえないだろう。 皆が鬼のように怒る事を考えると、気分が憂鬱になってくる。
「大丈夫だ、いざとなったら俺が山神のふりしてやるから」
どことなく楽しそうな言葉に、つい吹きだしてしまった。
「何だよ?」
「いや、だって何か楽しみみたいな顔をしてるから・・・」
まだ笑いが収まらなくて、我慢しても肩が震える。
「そうか?まぁ、ばれたら逃げりゃぁ良いからな。あんまり心配してると、ハゲるぞ」
「は、ハゲたりなんかしないもの!」

すっかり明るくなった空に、楽しげな笑い声が響く。

まだ始まったばかりの、ある朝の出来事だった。

*あとがき*
こんにちは、東雲です。
今回も、なんだかぐだぐだになってしまいました・・・。
実はこの後、村に戻ったら前回文だけ登場の吸血鬼が村を襲ってたりするのですが、
クリスマス号ということで、少し明るい部分で切ってみました。
えぇ、まぁ、元々話自体は暗め(あくまでも暗め)の話なんですがね・・・(汗)という訳で千早と奏の出会い編でした。
本当は饅頭の話も入れたかったんですが、タイミングを逃して入れられませんでした。
気なる方はウィキで検索すれば出てきますよ。人身御供なんかは、昔はよくあった事らしいです。
今の時代って素晴らしいですね。
それなりに、平和に暮らせているし。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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