ロマンキコウ

負け犬クンの話

 ニイジマさんはベンチから立ち上がり、手を振りながら帰っていった。僕は、それから二十分後くらいにベンチを離れ、公園を去った。このときの僕は、確かに、少し幸運(な気分)になっていた。そして、夕焼けの橙色の光が落とされている道を辿り、僕は帰宅した。そして僕は我が家に到着するや否や、自分の部屋に直行した。そして、僕はその石を勉強机の引き出しの「大事なもの入れ」にしまった。
「おやぁ?主さまぁ。またまたお母様にお見せできないものを、私の中に隠してんですかぁ?」
勉強机が今日もまたイヤミを言ってきた。うざったい。
「そんなんじゃないよ。『幸運の石』さ。イヤラシイもんじゃないよ。」
「本当ですかぁ・・・?こぉのまえだって、エッチな本とか隠してたでしょう。わ・た・し・に。」
「本当だってば!まったくもう!うざったいなぁ!」僕はその机怒鳴った。
 しかし、僕は「そう言えば主さまぁ。今日の午後、お母様が『大掃除をしよう』っておっしゃって、私の中を覗いちゃったんですよぉ。そんでもって、そこにあった主さまの本やらDVDやら、全部持ってちゃったんですぅ。あ、大丈夫ですぅ。お勧めの本はどの本かちゃんと言っときましたからぁ。」という机の言葉により、顔を真っ青にさせられた。ヤバイ、本当ににヤバイ。一階の玄関のドアが開いた音がした後、僕の部屋のある二階へと続く階段から、ステップを一つ一つ踏みしめる音が聞こえた。匂いでわかる、母が帰ってきたのだ。やはり、僕の机の中にあった本やDVDについて、色々と説教をされる事になるのだろう。本当に色々と・・・・・。
 畜生。
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 その石は、確かにただの石ではなかった。それに気が付いたのは、その石を手に入れてから約2日後の事だった。僕はその日の昼、道端の何もない(と思っていた)所で大きく転倒した。起き上がった僕が、さっき転倒した所に目を遣ると、ぽつんと一つだけ、小石が置かれていた。これに躓いたのだろう。しかし、僕は腑に落ちなかった。それは、僕がその辺りを歩いていたときには、見当たらなかった小石だったからだ。「なぜ、いきなり小石が現れたんだろう?」と不思議に思い、その小石の「匂い」を嗅いでみると、その石は僕の所有している「幸福の石」であるとわかった。(「幸福の石」は、それぞれ匂いが違うのだ。道行く人々の持つ石の匂いは、明らかに僕の石のそれとは違った)。それでも、僕の中にある疑問は完全に消えたわけではなかった。
 なぜ、勉強机にしまっておいたはずの石が、こんなところに・・・・・?
 しかしその疑問も、すぐに解決された。石が歩いたのだ!
 僕らの世界には、口を利く二足歩行の「デンカセイヒン」、「ドウブツ」、「ムシ」等は居るのだが、蜘蛛のようにかさかさと、四本の足を駆使して歩く石は見た事がない。僕は驚いた。
 このようなことが、十二月二十五日までの一ヶ月間続いた。しかもその石は、周りの状況など気にせずに僕を転ばそうとするので、何度も僕は車に轢かれかけらりたり、電車に跳ね飛ばされかけたり、巨人族に食べられかけたり、オランウータンに刺されかけたりした。ずっと、このような調子だったのである。
 つまり、「幸福の石」を手に入れてから、僕の下に数多くの幸福が舞い込むようになった、なんて事は無く、むしろ、その石は不幸や災難ばっかりを僕の下に舞い込ませてくるのだ。ニイジマさんはどうなっているのだろうか、僕は心配になってきた。
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