ロマンキコウ

負け犬クンの話

 十二月二十五日。とうとうこの日がやって来た。街の一部は毒々しい紅色のイルミネーションで。その他は、爛々と輝く赤色や黄色、青色、緑色等のイルミネーションで、着飾られていた。毒々しい色に装飾された地域がかわいそうだと、クリシマスパーティーに参加し終え、自室から窓の外を眺めていた僕は思った。
机上に、「幸福の石」が置いてあった。
「そろそろかな。」と、僕は呟いた。
 「いままで、この石は散々所有者を弄んできたんだ。『奇跡』とは、とびっきり『良いもの』に違いない。ニイジマさんも楽しみにしていたじゃないか。」という根拠の無い期待を膨らませながら、僕は「奇跡」が起きる瞬間を待った。
・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 おかしい。何時間待ってみても一向に、石に変化の兆しが見られない。そんなはずは無い。ニイジマさんがくれたものが、ハズレだなんてことはあるはずが無い。だけど・・・、彼女もテレビCMを視て初めて、「奇跡」の存在を知ったわけだし・・・・・。
 「奇跡」を見るのを諦め、その石を机の中にしまおうとした、その矢先・・・、
パシュウウウゥゥゥン
 石から発せられた光が、部屋中を薄いエメラルド色に染めた。
「!?」
 僕は一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「んがごっ!な、な、な、ナニゴトですか主さまっ!?」
 その強烈で、綺麗なエメラルド色の光は、眠りこけていた机の目も覚まさせた。
 発せられたその光は、よく見ると無数の糸の様になっていた。その光の糸は、それぞれ束になるように合わさっていき、やがてそれは、中央の石を包み込むような繭になった。光は発し続けられていた。
「ど、どうなっているのですかぁ?」机が言う。
 やがて、その繭はグネグネと波うち、形を変化させていった。その波うちは、繭の大きさが小さくなるごとに治まっていった。
「おお・・・。」僕は思わず息を漏らした。
 そして繭はやがて・・・・・・・・・・・。

 土色の蛾になった。

 石から生まれた蛾は、部屋中をパタパタと、自由奔放に悠々と飛び回っていた。羽の色は、裏も表も土色であった。身体の色は、羽よりも濃い土色であった。僕は驚き、呆れた。机は、「なぁんだ。蛾の卵だったんですか。驚かさないでくださいよぉ。ふあぁぁ〜〜〜あ・・・・・。」と言って、再び眠りについた。僕は呆然と、飛び回る蛾を目で追っていた。
 外の世界には、雪が舞っていた。紫色の雪であった。今朝の天気予報どおりだ。
 ははっ。
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