獄華蓮

Monochrome

 「イア、朝だ起きろ。」
 キースの声で目が覚めた。多分、イアとほぼ同時。と言いつつも実際はそんなに寝ていない。きっとキースだってそうだろうに、その上昨日あんなことが発覚したの言うのに。いつも通りにイアに接している。キースは大人だ。俺はまだまだガキだ、と改めて実感した。
 キースの作った朝食を三人で食べながら、いつドクターのとこに行こうという話をイアにしようかタイミングを図っていたら、キースが先に切り出してくれた。
 「イア、朝食食ったらドクターのとこ行くぞ。」
 イアは口にパンを運ぼうとしていた手を止めた。そして視線をパンからキースに移した。
 「なんで私がドクターのとこ行かなきゃならないの? ドクターのとこに行くなんて絶対いーや。」
 出た、コレットと同じだ。人に指図されるのが大嫌いだったコレットは、たとえそれほど嫌ではないことにも、人に指図されると嫌だとすべて断っていたのだ。そしてコレット二号であるイアも同じような癖を持ったのか、俺たちが何か指図、というか誘うだけでもこうなのだ。いつもなら引いても構わないのだが、今回ばかりはそうはいかない。
 キースは溜息をつきながら、イアに視線を合わせた。
 「イア、これは指図じゃない。頼みだ。頼むから、ドクターのところへ行こう。俺とアシルも行く。」
 キースが初めて、頼みだと言った。真剣に。これには流石のイアも反論出来なかったのか、渋々首を縦に振った。そして俺の中の一つ目の不安が立ち去った。
 「そ、そこまで言うなら……。でもなんで? 私、どこも悪くないと思うけど。」
 「ま、定期健診みたいなもんだ。」
 「そんなのしたことないわよ!」
 十歳とは思えぬ反論。しかし流石キース。よくこの頑固娘をうまく丸めこんだもんだ。
 その後イアもまたパンを口に運び、三人の朝食が終わったところでドクターのところへ行く支度を始めた。もう冬と言うこともあり、外は氷点下に達することもあるほどの寒さだ。俺たちは各自自分のジャケットを着て外にでた。
 生憎まだ雪は降っていないようだった。ドクターのとこまでは、家から歩いて十分もあれば着く。俺たちはたまに会話を交えたりしながら目的地を目指した。

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