獄華蓮

Monochrome

 「シーくん、私は皆とは違う世界を見ているんだよ。でも、お母さんと同じ世界を見ているの。この幸せが、シーくんにわかるかな?」
 わかるわけないさ、お前やお前の母親と同じ世界を見ることが出来ないんだから。
 こいつは母親に良く似て、こいつの笑顔なんて母親の十歳のころと瓜二つだ。

 「アシル、そりゃあ本当な話か。コレットが逝ったってのは。」
 話は約十年前、俺がまだ仲間たちと漁を始めたばかりのころ。俺の歳は十代後半と言ったところで、仲間であったとキースと漁の片づけをしていた時の話だ。
 「あぁ。さっき、お前が便所行ってる時に婆さんが知らせにきたんだ。元々病弱だったのに出産したのが悪かったんだろうってよ。」
 コレットとは、俺たちの古くからの友人であり、病弱でありながら少々気の強い女であった。茶髪がよく似合っている女だった。俺たちが婆さんと呼んでいるのは、コレットの隣人で、病弱なコレットの家まで頻繁に手伝いをしに来てくれていた人のこと。なんだかんだで俺たちも助けてもらうことが多かった。なんせ、俺とコレットとキースには親がいなかったから。親代わりみたいなものだった。
 俺たちは生まれた時からずっと一緒みたいなものだった。だから三人とも、兄弟みたいなもんだった。コレットが一番上、二番がキース、末っ子が俺で。
 キースが地面に座り込んだので、俺も作業を一端止め、キースの横に座り込んで口を開いた。
 「どれだけ婆さんが止めたって聞きやしなかったんだ。父親だっていないと言うのによ。だが……アイツは後悔してないだろうよ。」
 「なんだかんだでしぶとい奴だったのにな。とうとう逝っちまったかァ……。これでこの島も随分静かになるだろうよ。」
 「お前は……もっと悲しんでやれよ。しかし、それはどうかな。」
 キースは頭にクエッションマークを浮かべて、いつものキツイ目つきで俺を見た。
 「言ったろ? コレットは出産して逝ったんだぜ。すぐにコレット二号が島を騒がしくするさ。」
 するとキースはニヤリと笑ってから、大声で笑った。そして俺の方を涙目になりながらみて言った。
 「そのガキは今、婆さんとこか? しかしずっと育てるなんて、あの老い耄れ婆さんにゃ無理だ。」
 「あぁ、それなんだが、俺が引き取ることにしたんだ。責任もって育てるさ。怪我なんかさせたら、コレットに殺されちまうしな。」
 そりゃいいや、と言ってキースは立ちあがり、片づけを再開した。俺はそのまま地面に座っていた。

 それからイアと名付けられたコレット二号は、大きな怪我も病気もせずにすくすくと成長した。イアがうちに来てから、俺とキースまで一緒に住むようになった。そして俺とキース、それから二年前までは婆さんも一緒に。今じゃ十歳にもなり、見た目は若かりし頃のコレットにそっくりだ。やっぱり、コレットと同じで茶髪が似合っている。イアは最近では、キースと釣りをするようになった。俺が危ないと言っても、どうせキースが川に連れて行っていまうんだ。まぁ、キースがいれば心配はないんだけどな。
 今日もいつも通り、イアはキースと釣りに行き、俺は漁に出て、夜には三人で夕飯食べて寝る予定だった。なにも事件は起こらないはずだった、俺の予定では。
 夜に三人で夕飯を食べ終わるまでは、予定通りだったんだ。しかし夕飯を食べ終えてから、予定は狂った。急にキースが俺に話があると俺を外に連れ出した。その顔はいつも以上に真剣な顔だった。その顔を見た俺は、イアに「歯磨いて、顔洗ったら先寝てろ」と伝えた。キースがいつも以上に真剣な顔をしている時の話は、長話になることが多いからだ。俺はジャケットを着ながら外へ出た。

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