南阜

人が死んだ瞬間に人は狂う

ワイドショーやニュースなどでも、いつも報道されていること…。それは『一日に死者の数』だ。都道府県別に表示されるものの中でも、北海道が断然多いのだ。昔は秋田県の方が多かったのだが、近頃の温暖化の影響で、東北の人達が涼しさを求め、北海道に引っ越してきた、というのもあり、北海道は人で溢れかえっていた。そのため自殺、他殺も含め『一日の死者の数』が増えているのだろう。
「…お前は死んだりすんなよ」龍一はチラッと大輔の顔を見て言った。
「はぁ?誰が死ぬか!俺には可愛い彼女が居るんだから、悲しませたくはないでしょ」
大輔はへらっと笑って言った。どうやら大輔には可愛い彼女が居るらしい。
「ノロケくらわすな、俺が悲しくなんだろ」
龍一は少しすねたように言った。
「ごめんごめん、冗談!」
大輔は申し訳なさそうに言った。その後に「そういえば」と話を続けた。
「噂じゃ、真澄ちゃん、おまえのこと好きらしいよ」
そんな噂があったのか、と言わんばかりに龍一は驚いた。
「は?誰、マスミちゃんって?可愛いの?」
龍一は大輔に訊いた。
「え、龍一って意外に面食い?」
大輔は訊かれると思っていなかったのか、目を見開いた。
「いやいや、性格重視だけど、お前のことだから、可愛いか可愛くないか、そう言う判断で言いそうだったから」
龍一はさらっと毒を吐いた。
「…失礼な!ふざけんな!俺の彼女が一番に決まってんだろ!」
大輔はまたさり気なくノロケを龍一にくらわせた。
「ハイハイ、で?その真澄ちゃんてのは?何組の子?」
龍一は呆れたように、投げやりに返事をして、話を続けた。
「んーたしか、四組?」
大輔は曖昧に言った。
「四組?遠くね?俺八組行ったこと無いけど」
龍一は意外な答えに驚いた。
「アレ、俺の可愛い彼女、裕子の友達!」
大輔は一言多めに言った。いつも一言多い。
「…あぁ、よく廊下で会ったときに一緒にいるあのロングヘアーの?」
龍一は納得し、手を叩いた。
「そうそう!その子!告ったら?」
大輔はふざけた様に言ってみせた。
「は?なんで俺が」
龍一の顔が一気に険しくなった。言葉に棘があった。
「ほらーもうすぐ、クリスマスじゃん?言っとくけど、俺、今年は裕子と過ごすから、おまえとは過ごせないんだ!ごめんな!」
龍一と大輔はたまに話がかみ合わない。そういうところがある。
「…あっそう、そんなことまでは訊いてねぇけど」
龍一は大輔の彼女自慢話には飽き飽きしていた。少し薄目で大輔を見た。
「だから、おまえも独り身やめて、彼女作れ!」
誤魔化すように笑って大輔は言った。
「…そんな易々と作ってたら、相手が可哀想だろ」
龍一は人を傷つけると言うことが嫌いらしい。龍一らしい答えが出た。
「……龍一、おまえは優しいやつなのに、なんで彼女が居ないんだ…」
大輔はふざけて、目頭を押さえた。龍一は静かに笑った。
「別に彼女なんていらねぇし」
他愛のない話をしているうちに、学校に着いていた。
ここ数年で生徒の数も減った。昔は八クラスもあったのだが、いつの間にか、四クラス…つまり半分までに、減っていた。生徒がこれほどまでに、減った理由はやはり、狂った人による、殺人。幾多の殺戮行動を起こす人々を目の当たりにして、錯乱による自殺。疑心暗鬼に囚われて起こす事故。死因はさまざまだ。確実に言えること、それは、各クラスの半分はすでに死んでいる、ということだった。

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