南阜

人が死んだ瞬間に人は狂う

教室にチャイムの音が鳴り響いた。授業が終わると、担任が教室に入ってきた。また、あれが起きたのだ。
「…今日の授業はもうありません。みなさん、帰ってください」この言葉。毎日聞いている。誰かが学校内で自殺したのだ。「先生サヨナラ〜」と次々に生徒が帰って行く。
「…先生」
龍一と大輔は担任の方に近づいた。
「……どうしました?」
担任はにこりと微笑んだ。しかし、目の下にはクマが出来ていて、疲れきっている様子で、目が全く笑っていなかった。
「あまり、無理しないでくださいね」
龍一は慰めるような目で担任を見た。
担任は静かに頷いて、「ありがとう」と枯れた声で言った。
「無理しないでください」という励ましの言葉に聞こえるものも、裏の意味を込めると、全く違うものになってしまう。「死なないでください」と言っているのと一緒だ。
一番辛いのは大人たちだ。
こういう事態になってくると、救急車は自殺しようとした人達を搬送などしてはくれなくなった。警察も通報から現場に駆け付けるまでが、間に合わなくなっていて、頭を抱えている状態。
誰のせいでこんなふうになったのか未だ不明。

「んーよし、帰るか」
龍一は大きく伸びをした。
「そうだなー」
大輔は龍一のあとについて行った。
「…あれ、裕子ちゃんと帰らなくていいのか?」
龍一は思い出したかのように言った。
「真澄ちゃんと帰るんだって」
大輔は少し寂しそうに言った。
「…出た、真澄ちゃん」
龍一は不意にも少し笑ってしまった。
「俺の恋路を邪魔してくるある意味邪魔者」
大輔は冷たく言い放った。
「酷い言いようだな」
冷めた言い方をした大輔を見て龍一は少し引いて言った。
「冗談だけどねっ」
大輔の顔に笑顔がすぐ戻った。
「…冗談に聞こえない」
龍一は少し呆れたように言った。
「あっはっは!」
大輔は大口開けて笑った。
「…どうせ家に帰っても暇だし、どこか寄って行かないか?」
龍一は先程の話を流して、違う話を持ち出した。
「良いねーどこ行く?」
大輔はにこりと笑って賛成した。
「マック行くべ、俺クーポンあるよ」
龍一は財布の中からクーポンを取り出して見せた。
「マジで?行く行く」
大輔は嬉しそうに笑って言った。

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