状況を飲み込めずに俺は呆然とすることしかできなかった。
そんな俺を子供は面白そうに眺めている。
(・・・何が起きている?)
頭の中は混乱と困惑が繰り返されている。
(窓を閉めようしたら何かが引っ掛かって、
引っ掛かっていたのは手で、その手はこの子のもので・・・この子は誰?)
やっと混乱が終わり顔を上げると、鼻先がくっ付きそうなくらい近くにさっきの子供がしゃがんでいた。
「お兄さん聞いてる?」
長い睫に縁取られた大きな瞳が間近で瞬きをしている。
「ちょ、ちょっと待て待て待て!」
焦って子供から離れた。
いつの間に近くに寄っていたのだろう?
音も気配もしなかった・・・。
いや、俺が鈍感なだけかもしれないけれど。
さっきから寿命の縮むようなことばかりで、なんだか胃の辺りがきりきりするような痛みが走っている。
後で正露丸でも飲もうと考えながら、子供を上から下まで眺めた。
身長は百五十弱くらいだと思う。
年齢でいうと十二、十三くらいだろうか・・・?
蜂蜜色の髪に象牙色の肌、そして宝石のような瞳。
外人か、もしくは髪を染めたりカラコンを入れてる不良中学生といったところか?
「ねぇねぇ」
声をかけられ子供の方を見た。
「・・・なんだ?」
「駄目っていわないってことは、良いの?」
「何が?」
「良いの?悪いの?はっきりしなさい!」
いきなりそんなこと言われても何のことだかさっぱりだ。
それに「しなさい!」って命令口調かよ・・・。
「どっちだよ!!」
「え・・・、あ〜だったら良いよ。」
何のことかは判らないが子供の口約束のようなものだし、遊びだろうと思って適当に答えた。
「・・・今、良いって言ったよね?」
「あ?・・・ああ。」
今までとは違うトーンに少し不安が生まれる。
(俺やばい約束したかな・・・?)
何の約束か聞こうとすると、子供はにっこりとした表情で言った。
「ありがとう、お兄さん。」
「は・・・?」
なんだか本気でやばいことに巻き込まれている気がする・・・。
「俺何か約束とかしたか?」
「いや〜、こんな優しいお兄さんが世の中いるんだねぇ。」
(シカトかよっ!!)
イラつきを抑えるため、大きくため息をついてから子供を見ると勝手に布団の中に包まっていた。
「ちょ、お前何して!!?」
「ありがとうお兄さん、お休み。」
「いや、意味判かんねぇよっ!!」
大股で布団に近づき、身体を大きく揺さ振ると綺麗な顔が歪み始めた。
「も〜、眠いんだから寝させてよ。」
「うちに帰って寝ろよこのガキィイ!!」
「お兄さん絶対高血圧でしょ?早死にしちゃうよ?死にたくないならもっと穏やかに生きようね。」
(俺のいうことはやっぱり無視かぁあっ!!)
自分の中で何かがぷつんと切れるものを感じた。
「まて、何でお前は俺の家に泊まるみたいなことになってんだ!?・・・っていうかお前誰だ!?」
「・・・お兄さん、良いってさっきいったでしょ?」
「!!・・・ああ、まぁ。」
「俺一番初めに言ったじゃん、ここに泊まってもいいって。」
驚きと混乱で記憶も曖昧だが、確かにそんなことをいっていた様な気もする。
良いか悪いかとはこのことだったのか・・・。