次の朝、眩しいくらいの日が差し込んで俺は自然と目を覚ました。
大きく伸びをして、さてガキでも起こすかと布団を剥いだ。
けれどそこには誰もいなかった。
(・・・トイレか?)
少し待ってみるが、誰かが家の中にいる気配もしない。
心配になって家中を探したが、子供はいなくなっていた。
現れるのも消えるのも突然で、本当に夢を見ていたようだ。
もしかしたら本当にあの手を見た時点で俺は夢を見ていたのかもしれない。
尋問自答を繰り返すが、決着はつかなかった。
考えていても仕方がない、そう思いとりあえず布団を片付けることにした。
布団を押入れにしまおうとして抱きしめると、
さっきまで気がつかなかったが、微かに花の蜜のような甘い香りが鼻を突いた。
俺のものではない誰かの匂い・・・。
昨日の子供の匂いが布団には残っていた。
(夢じゃなかったのか?・・・)
もう一度布団に鼻を付けてみるが確かに甘い匂いがする。
またも混乱が頭を支配する。
額を押さえつけ考え込んでいると、目の前に昨日の夜に見た花浅葱色の蝶が目の前を通り過ぎて行った。
蝶は俺の周りを一回りしてから、ひらひらと舞い遊ぶようにして窓のほうへ姿を消した。
出て行った窓を暫らく見つめていると、再び蝶が姿を現し、それからまた窓の近くを舞っていた。
不思議に思って最初は見つめていたが、だんだん飽きてきて視線を布団に戻した。
すると窓のほうから声が聞こえてきた。
「お兄さん、今日の夜また来るから窓鍵かけないでよね。」
勢いよく窓のほうを振り返ったが、そこにいたのは子供ではなくて蝶だった。
《ほんと・・ちょうだも・・・。》
昨日子供の言っていた言葉がリアルに聞こえてきた。
「・・・まさかな。」
そうつぶやきながらも、その考えは一日中頭から離れなかった。