「月光蝶・・って感じだな。歌の歌詞とかには使われること有るけど、
本当に実在する蝶の種類だとは思ってなかったな・・・。」
「人間は確認していない種類だから、
・・・っていうか見つかったら解剖とか実験とか色々されちゃうから仲間はみんな隠れてきたんだと思う。」
「人間の姿に変わる蝶だもんな・・・。見世物にされることはまちがいねぇな。
それより、なんで人間の姿になれるかはしらねぇの?」
「う、うん・・・。」
「そっか。科学的に考えれば蝶の遺伝子を組み込まれたっていうのはありえそうだけどな・・・。
お前もともとはどっちなんだ?」
「どっちって?」
「人間だけど蝶になれるのか、蝶だけど人間になれるのかってこと。」
「・・・わかんない。」
「どうやって生まれてきたか覚えていればどっちかは特定できる。最初の記憶は?」
「・・・わかんないよ。・・・・・気づいたら空飛んでた。」
「なんだそのタミフル服用した患者みたいな言葉。」
「ほんとだもん!・・・知らないよ。わかんない・・・。」
まだ聞きたいことは山ほどあった。
けれど子供の思いつめる苦しい顔が見ていられなくなって、今日はもう質問するのをやめた。
収穫はある。
この子が蝶であることが判れば十分だ。
話すことがどれほど重たく辛いことだったかは子供の様子を見れば容易く解った。
生物界の秘密を人間に話すのだから、罪の意識や恐れを感じているに決まっている。
話させないほうがよかったか、今更ながら後悔してきた。
さっきから腕をぎゅっと硬く組んでいる子供の頭をそっと撫でた。
「・・・?」
見上げた瞳は少し赤くなっていた。
「・・・話してくれてありがとう。」
「・・・うん。」
「ごめんな、辛い思いさせて・・・今日はもう眠れよ。」
「うん、そうする・・・。」
無理な笑顔が痛々しかった。
子供は布団にぎゅっと包まって、暫らくは寝返りを打ったりしていたが、小一時間たつと深い眠りに落ちていた。
子供の寝顔を見ながら、俺は隣で窓を見つめながら考え事をした。
暫らく子供はここに泊まることになるだろう。
そうすればいつまでもお前とかガキとか呼ぶのもどうかと思う。
時計の針はもう少しで十二時を回ろうとしている。
十二時になれば十一月は終わりを告げ、十二月が始まるだろう。
(十一月・・・霜月か。)
出会った時は霜月。
月光蝶の月に、霜という漢字。
「名前・・・霜〈ソウ〉でいいかな。」
どんな名前の付け方だと自分でも思うが、これ以外ぴったりの名前を自分は付けられないと思う。
言い換えれば自分の思いつく中で一番いい名前だ。
「おやすみ、霜。」
そういって頭を撫でると、霜は一瞬微笑んだように見えた。
季節は本格的な冬に差し掛かる。
本当に霜が蝶だというならば、霜は・・・
別れのときを覚悟しなければならない。
けれど今はそんなことを考えないようにした。
to be a continue
*加筆修正をしたものなので、本誌のものとは多少異なります。
あとがき
なんと、初あとがきです!
この前の作品のときはあとがきを書く暇がないくらいぎりぎりでしたから・・・。
今回も余裕とはいえませんがね。
今作も前作に続き昆虫シリーズ続いてます。
狙ってるわけじゃないんですけどね・・・
頭に浮かぶのが昆虫ネタ。
何かの呪いかな?
前作が呪いとかいって、結構ホラーだったので、
今回は可愛くファンタジーな感じがいいなぁと思って作っていたのですが、
またもバッドエンドになってしまいそうだという・・・。
っていうかタイトルの時点で可愛くとかそんな要素吹き飛んでます!