魅闇美

モザイク

一度悩むとなかなか立ち直れない性格の私は、 入学式の最中も悩みっぱなしでどんよりとしていた。
めでたい式のはずなのに一人葬式のような顔をしている私は 放送局員が撮っていたビデオにどう映っていただろう?
自分の周りにだけどす黒い霧がかかっていたとしても自分は驚きはしないと思う。 うだうだと悩みながら時間を過ごしたため、気がつけば入学式が終わりHRの時間だった。
誰かの話し声が聞こえてそっちの方を向くと、 担任になったらしい男性教師がプリントを配りながら唸るように何か言っている。 集中して聞いてみるが自転車という言葉しか聞き取ることができず、 話を聞くのはあきらめてプリントが回ってくるのを待った。 自分の列の先頭の人がプリントを配られ、後ろの方に回ってくる。 回ってきたプリントに目をやると自転車保険加入申込書と書かれていた。 自分はバス通だから関係ないなと思いながら自分の分をとって後ろの人に渡す。
上半身を捻らせて後ろを向くとふわふわとした髪の柔らかそうな女の子が頬杖をついていた。
プリントが回ってきたのに気づいてその子は手を伸ばす。
受け取るために差し出された手を見るとその子の肌の白さに驚いた。
白い手を見ていたが、なかなかプリントを受け取らないのを不思議に思い顔をあげた。 くりっとした瞳が見開かれて自分のことを凝視している。
「あ・・・。」
そう言ったのは自分だったか彼女だったか。
この瞳を見たのは2回目だった。今と、そして入学式の前に窓で。 まさか同じクラスで、しかも出席番号が後ろだなんて気付かなかった。 出席番号が後ろなら入学式の最中もずっと隣にいたということではないかと、 気付かなかった自分にあきれを通り越して感心してしまう。
改めて彼女を見ると鼻と口がちっちゃく、そのおかげで目が異常に大きく見えた。 自然と視線が目にいくのはそのせいかもしれない。 肌の白さとふわふわの柔らかい髪はどこか砂糖菓子のような雰囲気があり、女の子らしくてうらやましいと思った。 私が見るところこの子は誰かにさっきのことを言いふらすような子ではないと勝手に思った。
そして私の眼に狂いはなかった。
「・・・君がいれば世界はバラ色に染まり心は幸せに満たされて・・・。」
自分以外には聞こえないような小さな声でさっき自分のいった言葉を復唱する。
よく覚えていたなと思いながら彼女の言葉の続きを待った。
このあとどんな言葉が待ち受けているのかと緊張がはしる。
変な子とかそんなような言葉を向けられたら 自分はどこまで落ち込むだろうと最悪のパターンを想定していたのだが・・・
「・・・僕の中の愛の噴水は溢れて僕は溺れてしまうかもしれない。」
(は・・・?)
何を言うのかと思えば彼女は自分の台詞の続きを考えて返してきたのだった。
唖然とするも胸の奥には希望のようなものが輝いている。
彼女は悪戯に成功した子供のようにニヒヒと笑って私を見ていた。
自分の顔も自然に口角が上がっていくのがわかる。
そして私は彼女にこう返す・・・
「けれど君の愛で溺れるのならそれは僕の本望だ。」

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