魅闇美

モザイク

梨麻に「大好き」と言われるたびに元カレとの恋愛を思い出すようになった。
彼と一緒に帰っていた時より、梨麻と帰っている方が楽しかった。 それは女同士だからというせいなのか、いや愛情と友情を比較するのが間違っているのかもしれない。 恋愛は傷つくこともあるが、友情にはない「愛している」の気持ちがある。
「大好き」よりももっともっと好きな気持ち。
けれど自分の中で(梨麻の大好き)>(元カレの愛してる)という式がある以上、 大好きよりも愛しているの方が好きの度合いが大きいなんて言えなくなってきた。 大切なのことに変わりはないが、好きにはランク付けやラインがあると思う。 ラインには友達、友達以上恋人未満、恋人とか関係の名前が刻まれていると仮定する。
そうだとしたら梨麻はどこに位置づけされているのだろう?
友達以上であるのは間違いないと思うが、そこから先が迷う。
異性でいう恋人の位置まで達しているのか、 それとも特に仲の良い友達ということで恋人のラインのすぐ下に位置しているのか。
数学の時間に目の前の例題よりも難しい難題に頭を抱えていると、梨麻が机の上に小さな紙を投げてきた。
紙を広げてみると〈麻美⇔梨麻〉と書かれていている。
麻美は梨麻であるための必要十分条件、梨麻は麻美であるための必要十分条件。
自分が自分であるために必要なもの。自分が自分らしくいるためになくてはならないもの。
梨麻は素敵でしょ、と言わんばかりの表情を向けてくるが 私は前の難題をひきずっていてどう答えればいいかわからなかった。
問1を関連付ける問題だから答られるわけなかったのかもしれないけれど。

必要と好きは違う。
憧れと愛しているはたぶん違う。
愛着と依存もなんとなく違う。
関連づいているような双方、上から下へ強まる思い。
それは友情→愛情も同じことなのだろうか。
梨麻と同じ時間を共有するほど仲良くなって、仲良くなるたびに変な悩みは膨らんでいった。
恋に限りなく似たこの気持は何なのだろうと。
知るのが怖くて感情にモザイクをかけて隠した。
いや、違う。隠したのではなく隠れてしまったのだ。
色々な感情が混ざり合って何が何だかわからなくなり、モザイク模様になっただけ。

「麻美ちゃんは好きな人いる?」
もし入学式の日にされた質問を今されたのなら、私はどう答えるのだろう?

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