正松

短編詩集「バクの休日」

「波を手で」

魚は逃げ出しているのに
僕の心は穏やかだ
何となくこの池はぬるいからだろうか
まるで体温のようだ

アパートのベランダから眺めただけでは
きっとわからなかったよ
部屋の隅でうずくまる猫が
答えてくれるわけでもないしな

完全に壊れたテレビを捨てずに
買い換えたDVDプレーヤーに叱られた
無理をするなってさ
それが無理なんだよ

そうだよ そう
僕はいつも利き手の逆の手を池に漬けて
返ってくる波を心待ちにしているんだ
それだけで 見えない砂嵐の中を
鮭のように泳げるんだ

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