獄華蓮

愛しの絆

それから一週間後、葉月圭は家に双子の子供の竜輝と千夏を連れてきた。その二人をみて、兄弟が増えるのだという喜びを感じる俺と、複雑そうな顔をした兄と姉がいた。それはそうだと思う。だってその双子は葉月圭と永眠した旦那の子で、一切俺たちとは血も繋がっていない。赤の他人なのだ。
そしてその後、父と義母は籍を入れた。
最初のころは家のことで困っていたことを姉に聞いていた義母は、頷くことしかしない姉を見て、「口で話をしなさい!」と怒っていた。それは籍を入れて一カ月ほど経った後の話だった。兄は兄で双子の竜輝と千夏をこの上なく可愛がり、本当の兄弟のように見えた。少し、嫉妬している自分がいた。
そして俺はほとんど会話をしていなかった。話すことがなかったのだ。それが一番の理由だった。
しかし義母はたくさん俺に話しかけてくれた。お陰で次第に壁が崩れ、自ら義母に話しかけるようにもなった。学校であったことなど、他愛のない話ばかりだったけど。しかし義母がとても喜んでくれたのでよかった。
義母が初めて親しげに俺に話しかけてくれた日も霧雨だった。

「懐かしいね、皐月」
昔を思い出していた俺を、姉の一言が呼びもどした。姉は、「何、昔のことでも考えてた?」とニヤニヤしながら俺に言ってきた。だから、「考えてないよ」と一言で返事をした。そして、「ふぅん」とそっけなく姉が返事をしたあたりで後ろからドアの開く音が聞こえた。
「ただいま!」
家に入ってきたのは義母の圭さん。いつもの綺麗な茶髪が少し水にぬれている。この霧雨の中、買い物に行ってきたからだろう。
「いやあ…急に雨が降ってきてね…買い物が嫌になるほどにねえ」
姉はそれを聞くと少し笑って、「お疲れ様。おかえりなさい、圭さん」と義母に言った。そしてその直後、俺も義母に声をかけた。

「おかえりなさい、圭さん」
すると圭さんは「ただいま」とニッコリと笑って言った。少し、顔が緩む自分がいた。

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