獄華蓮

愛しの絆

弟・橘竜輝 妹・橘千夏
 俺の弟、橘竜輝と妹の橘千夏は双子の小学1年生。彼らは二卵性双生児として生まれた。双子と兄の歳の差は十歳。これは結構離れていると俺は考える。それは当たり前のことで。現在の俺と兄、姉の母親は弟と妹の母であり、俺たちの実の母ではない。しかし、兄は双子にべったりで、双子も兄にべったりだ。まぁ、兄の場合、姉にも…俺にもべったりなんだろうが。奴は家族を大事にするのだ。なんだかんだで俺は兄を尊敬しているんだろうな。
 少し話がそれたが、双子の性格ももちろん変わっている。あの二人はまるで宇宙人だ。…と口に出せば兄だけではなく、姉も、義母も、父も怒るだろうな。
 ではまたここで、一つエピソードを語ろう。今回もまた、先ほどの話で姉の部屋から逃亡した後の俺の話だ。

 黒となった姉から逃亡した俺は、もう小学四年生だと言うのに同室である竜輝と千夏の部屋の前にいた。正直、入りたくない。しかしもう逃げる場所と言っていい場所もないし…。
 この二人の場合、ノックをして返事がなければ中にはいない。又は入るな、という合図だ。俺は軽く、優しく二回ノックした。この前、ドンドンとノックしたところ、双子の隣の部屋の兄に、「うるさい黙れ。お前はもっと静かにノック出来ないのか?それともクラッシック音楽の中でも特に打楽器が好きでやりたいということか?それでさりげなくノックで練習か?ふむ、反対はしないが、できれば弦楽器がいいと思うぞ?どうだ、お前ならチェロだって楽なんじゃないか?体力あるだろ。確か…柔道部だったよな?チェロと言えばな――」と注意された。と言うより語られた。奴は何がしたいんだ、語りたいのか、兄として弟に注意しに来たのか。
 ノックをしたが、部屋の中から返事はなかった。しかしその代わりといってはなんだが、俺の背後から声が聞こえた。
 「またお姉ちゃんにいじめられた?さっちゃんは奴隷なのかな、おねえちゃんの奴隷なのかな。奴隷っているのは人間としての権利と自由が認められなくて、他人の所有物として扱われる人のことだよ。さっちゃんにぴったりだね」
 「またお姉ちゃんにいじめられた?さっちゃんは下僕なのかな、おねえちゃんの下僕なのかな。下僕っていうのは、召使いの男のことを指すんだよ。さっちゃんにぴったりだね」
 後ろから俺のことを貶したのは双子の竜輝と千夏。初めに喋ったのが竜輝で、次が千夏。振りかえれば、どちらもニコニコして俺を見ている。この話を聞くとこの二人は、難しい言葉を知っているように思うかもしれないが、実際辞書に書いてあることをほんの少し噛み砕いて説明しているだけで、説明を理解している訳じゃない。だからあんな卑劣なことを平然と口にするのだ。実際、小学四年生が兄に向って「奴隷!下僕!」なんて言っているのは恐怖しかない。しかも、笑っているのだから。
 「竜、千夏。そういう単語を人に言っちゃ駄目だ。言われた人は、とっても傷つくんだぞ」
 と言った途端、二人はポカンと口を開けた。そして二人で顔を見合わせ、またニッコリ笑って言った。
 「さっちゃんは、どこも傷ついてないよ?」
 「さっちゃんは、どこも傷ついてないよ?」
 本当に頭を抱えた。駄目だ、二人とも全く理解してない。いつものことだけど、今日ももうお手上げ。説明してもしてもきりがない。まぁ、俺には最後の切り札があるからな。それを使えばいいだけだ。
 そして俺は切り札を使うことを決意し、叫んだ。

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