獄華蓮

愛しの絆

「兄貴―――――――――――――――――!」
 最後の切り札、それは兄。兄ならなんとかしてくれる。ドダドダと隣の部屋から聞こえる。そして急にドアが開いた。そこには焦った兄の顔が。
 「なんだ!?何かあったのか!大丈夫が皐月!死ぬな皐月!お前なら出来る、俺は信じるそ皐月!」
 と訳のわからないことを叫びながら俺の方へきた。自分の部屋のドアは開けっぱなしで。そして俺の肩を掴み、ゆさゆさと揺らした。正直、肩が痛い。そんな力で掴まないでもらいたい。しかしそんなこと言えるはずもない。きっと俺の叫び声を聞いて焦って部屋から出てきたんだろうから。何が元不良だ。すごい、いい奴じゃないか。こんな家族思いな奴、世界中探してもそういないぜ?変人だけど、やっぱり兄はすごい、といつも感心してしまう。
「あ、兄貴…俺は大丈夫だよ。なんでもないんだ…」
 すると俺の肩を揺すっていた手を止め、じぃっと俺の目を見た。そしてふぅと溜息をついて俺の肩から手を離した。
 「あんな大声で叫ぶからお前に何か合ったかと…本当に心臓に悪い。心配で死ぬかと思った」
どこにそんな心配する時間あったんだよ。とか思いながらもついつい顔の筋肉が緩む自分がいる。なんだかんだで俺も兄にべったりじゃないか。兄は、心配性すぎるんだ。いつか損するだろうけど、きっと本人はなんとも思わないどころか、気付かないんだろうなぁ…。
「それで、なんだったんだ?さっき叫んだのは…」
「あぁ、それなんだけど――」
俺が説明しようとしたら、俺よりも先に竜輝と千夏が兄に説明をし始めた。
「あのね、さっちゃんがね、奴隷!下僕!って言ったら傷つくんだって。どこからも真っ赤な血は出てないよ?」
「あのね、さっちゃんがね、奴隷!下僕!って言ったら傷つくんだって。どこからも真っ赤な血は出てないよ?」
なんだよ真っ赤な血って。小学生が妙にリアリテイのあることを言うな。俺、血とか苦手なんだよ。
すると兄はすっとしゃがみ、二人と目線を合わせた。そして、いつものような音楽について語るような真剣な顔ではなく、少し寂しそうに微笑んで口を開いた。
「いいか、竜、千夏。傷つくのは目に見える部分だけじゃないんだよ。皐月は心が傷ついたんだ」
「どうやったら見えるの?」
「どうやったら見えるの?」
二人は不思議そうで、しかしとても楽しそうな興味津津という顔で兄のことを見た。そして兄は苦笑しながら軽く溜息をつくと、また口を開いた。
「見えないよ。心は、皐月にしかわからないんだよ」
そう兄が答えると二人は顔を見合わせてニィッと笑って言った。
「さっちゃんしかわからないなら、さっちゃんが傷ついてるって嘘ついてるかもしれない!」
「さっちゃんしかわからないなら、さっちゃんが傷ついてるって嘘ついてるかもしれない!」
流石の兄も絶句。俺も絶句。張本人の二人はニコニコと笑っている。兄貴は溜息をつき、「ま、まぁお前たちにもそのうちわかる時が来るさ」と言ってまだドアの開いている自室に戻って言った。その後兄は、自室のドアを閉める時にチラリとドアから顔を覗かせ、俺に目を合わせた。そして声を出さずに口だけを動かして俺に「あとは任せた」と言った…と思う。
正直、どうしようもないのでまだ笑っている二人をチラッと見て、「部屋に戻りなさい」と言った。すると珍しく二人は素直に部屋へと入って行った。

双子はこのように、少しどころかかなり変わっている。たくさんの難しい言葉や表現を知ってはいるが、意味を知らずに使っている。そのため、簡単に人を傷つけるようなことを言うのだ。それを直そうと兄、姉、俺は努力をするがなかなか直るはずもなく。
こればかりは、時間をかけるしかなさそうだ。

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}