南阜

春の奇跡

「あ。そういえば、彼女はどうした? 優」
春樹は思い出したかのように言った。
「あぁ、真由ちゃんのこと? 別れたよ」
優はにこりと笑って言った。春樹は「…はァ?」とつい間抜けた声を出した。
「いやぁ〜趣味が合わなかったみたいでさ。やっぱあれだよ、うん! 趣味が合ってる方が良いよ!」
優は分かり切ったようなことを言った。
「ま…どうでもいいけど。今度は誰狙ってんの? プレイボーイ」
春樹は少し蔑んだ目で見た。
「なにそのプレイボーイって! 俺をまるで変態扱いしやがって! 俺、そんなには、狙ってないからね?」
優は春樹に鋭い突っ込みを入れた。春樹にわざとらしく「えっ、違うの?」と言った。
「いやー、でも正直言うと、佐藤狙ってた」
優が小声で言うと春樹は「ほらみろ」と分かっていたかのように言った。
「いつも見る目がやらしくて気持ちわりーからモテねぇんだよ」
春樹は辛辣な言葉を吐いた。優は心に何か刺さったような感じがした。
優は「さすがモテる男は違うね〜」と言った。
「ん? あれ、要じゃねーか?」
春樹は優の話を無視しつつ、前の方に居る人を指差した。
「あ、ほんとだ! おーい、要〜」優は大きな声で名前を呼び、手を振った。
優の声に気付いたのか、静かに藤原 要は振り返った。
「あれ〜、春樹じゃ〜ん! おまえも寝坊?」
要は春樹の方を向いて言った。優は「ちょっと! 無視?」と言っているが、要はそれすら聞いていなかった。春樹は声を殺して笑った。
「…寝坊した、目覚ましも壊した」
春樹は苦笑しながら言った。要は「うわ〜ドンマイ」と言って笑った。
要は高校1年になったときに知り合ったばっかりなのに、凄く仲が良い。
「あのさぁ、要」 春樹は少し真面目な顔になって言った。
「ん、なに? 悩み?」と要はなぜか嬉しそうに言った。
「佐藤…って可愛いと思う?」
春樹の口から意外な言葉が出たかのように要は目を見開いた。
「…え、まじでどうしたの、春樹」要は思わず訊いてしまった。
春樹は「いやーその…」と言いづらそうに俯いた。優は何も言わずに笑っていた。優が笑っているのをみて、春樹はイラついたのか、思い切り優の頬をつねった。
「いたたたた!」と優は傷みを堪えていた。
「ん? どしたどした?」にこにこと要は春樹の顔を伺いながら訊いた。
「…こ、告られらんだけどさ…」と春樹がボソッと小声で言うと、要の目が点になった。
「え、まじで? 佐藤に? なんで? 何考えてんの? え、なに? 頭湧いた?」
要は物凄く動揺した。春樹より慌てている様子だ。
「知らないけど…なんか、告られた」春樹は首を傾げつつ、要に言った。要は一時停止したかのように固まって考えた。考えた結果、要は春樹の肩をガシッと掴んで、春樹の身体をがくがくと揺らした。
「…なにしてんだ! お前には想い人「う、うるせええ!」ギャーッ! 雪かけんな! きたねぇええ!」
要は春樹に車に轢かれて汚くなった雪をかけられ、悲鳴を上げた。
「え、なになに〜? 春樹、好きなやつ居んの〜?」
優はニヤニヤしながら春樹に訊いた。
春樹はギッと要の方を睨んだ。要はへらへらと笑った。
「べ、別に、そういう訳じゃないけど、いいなぁって思っただけだし!」
春樹は顔を赤らめながら言った。
「で? 誰?」
優は春樹の肩に手をポンと乗せながら言った。
「はァ? 誰がお前なんかに言うかっての!」
春樹はペシッと肩に乗せられた手を払いながら言った。
「なんでさ! 要には教えといて!」
優は不満そうに口を尖らせて言った。
「ふっふっふ〜」と要は自慢げに笑って見せた。無駄に不気味な笑い方をする。
春樹は「気持ち悪い笑い方するな、要!」と言いながら軽く要の頭を叩いた。
「ひどっ! これがもともとだ!」
要はふざけたように言った。春樹は呆れたようにため息をついた。
「…で? それはともかく、どーすんの? 佐藤のことは」
要と春樹の話の間に入り、優は春樹に訊いた。
「…もちろん断るよ」
春樹は当たり前のように自信ありげに言った。
「今日断るの? 俺、恋のでばがめになってあげる」
要は何故か嬉しそうに言った。春樹は物凄い形相で要の顔をみた。要は気がついたのか、「じ、冗談だよ」と付け足した。
「はぁ、全く…」
春樹は深いため息をついた。
他愛ない話をしているといつの間にか、バス停に着いていた。
春樹は携帯で時間を確認しながら「バス何時? 今九時だけど」と二人に訊いた。
「んー…九時四十五分」と要はバス時刻表を見ながら言った。
「まだまだじゃね?」
優は呆れたように言った。要と春樹は「たしかに」と同意した。
「あ、思い出話しようよ」
優は思い出したかのように言った。春樹の顔は一気に怖くなった。「はァ?」と般若のような形相で優を見たが、要が「俺らの出会い編!ハイスタート〜」と言った。
「うわー勝手にスタートされた〜」

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