南阜

春の奇跡

それはある日の放課後のこと。
「宮本!」
春樹は振り返った。
「なに?」
振り返りながら用件を訊いた。
「今日の委員会さ、俺の代わりに出てくれないか? 用事があってさ」
必死にお願いしているのを見ると、きっと遊びに行くのだろう。と春樹は思った。
「ん、いいよ」
「サンキュ!」
ポンと肩を叩かれ、「頼んだぞ!」と言いながら去って行った。
――――――…
「んーと…」
春樹は一人教室で配布されたプリントをホチキスで留めていた。
パチン…パチンとホチキスで留める音が響く。
「春樹さぁ、自分がいいように利用されてるって気付かないの?」
春樹は後ろから声が聞こえて驚いた。
「…あ、優くんに、要くん」
「呼び捨てでいいよ、春樹」
優はにこっと笑って言った。
「…ねぇ、春樹、なんでお前ってそんな人のために尽くせるの?」
要は単刀直入に訊いた。
「……尽くした覚えはないよ、けど俺は、人の役に少しでも立ちたいから…」
「だから、利用されてんだって」
優はさらっと言った。春樹は手を休めずに黙り込んだ。
「じゃぁさ! 春樹! 俺らと友達になろ!?」
優はニコニコとしながら言った。
「…は?」と春樹は間抜けた声を出した。
それから、春樹の了承を聞かずして、優と要は春樹を友達になった。
 翌日
「春樹! 体育館行くぞ!」
要はジャージを持って廊下に出た。
「次体育だぜ! 急げ!」
優は春樹を急かすように言った。
「わ、わかったから、ちょっと待って!」と言って春樹は追いかけるように走った。
 体育館

「今日、バスケだってさー」
要は嬉しそうに言った。
「俺らで勝ってやろーな!」
優も嬉しそうに言った。
「あれ、春樹は?」
「…俺は…いいよ。足手まといになるだろうし」
春樹は手を横に振って否定をした。
「春樹もメンバーに入れていいか?」
「えー?」
他の男子は春樹が入ることに反対している。
「いいじゃん! 別に!」
要は威張って、春樹をチームに入れた。
ピーッッ………バスケの試合が始まった。
「へい! 優! パス〜」
要は受け取ったボールを優にパスした。
「おっと!」
優はキャッチしたが、直ぐ相手のチームの人間に囲まれた。
「ちっ!」
優はまわりを見回した。
すると、春樹のところがちょうどガラ空きだった。
「春樹ィ!」
優は一か八かで、春樹にボールをまわした。
「優! お前、ついにやけを起こしたか!」
相手チームの城嶋は言った。
「ん」
春樹はボールを受け取った。
「相手は宮本だ!」
春樹はシュートの構えをした。
「入らないに決まってる!」
春樹は片手打ちでシュートした。その場に居た全員が呆然とした。
ガコンッ 春樹が放ったシュートは見事入ったのだ。
しかも、ラインをよく見れば、3ポイントのところだった。
「……ん、入った〜…」
春樹はぼーっとしながら言った。
「すげぇじゃん! 春樹〜!」
要と優は近寄って抱き付いた。
「…中学のとき、バスケ部だったから…」
春樹はぽそっと言った。
「なんでソレ早く言わねぇんだよ!」
要は軽く頭を叩いた。
「なんだよ、あのヤロウ、調子のりやがって」
城嶋は少しイライラしているようだ。
「要や優と仲良くしはじめたし!」
城嶋の友達の馬場も言った。
「アイツ、一回シメるか!」
城嶋はにやっと笑った。
 昼休み
春樹は廊下に出た。
「どこいくんだー?春樹」
優が教室から廊下を覗きこむようにして訊いた。
「…飲み物買ってくる」
春樹はにこっと笑って言った。
「おぉ、わかったー」
春樹はゆっくりと歩いていた。
「おーい! 宮本!」
城嶋は廊下で歩いていた春樹を呼びとめた。
「城嶋くん…どうしたの?」
「ちょっと話があるんだ! こっち来てくれ!」
「うん、分かった」
春樹はこくんと頷いた。城嶋はにやりと卑しい笑みを浮かべた。
 裏庭
「城嶋くん、話って?」
「おまえ、調子乗ってんじゃねェぞ!優や要を手玉にとってよォ!」
「…はぃ?」春樹は呆然とした。
「優と要の仲間だって言うなら、お前を餌におびき寄せて、
 優と要をおまえの目の前でボコボコにしてやるよってんだよ!」
馬場も出てきた。馬場は仲間を連れて来たらしい。春樹は黙り込んでいる。
「なんとか言えや! おらぁ!」
城嶋は春樹の胸倉を掴んだ。

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}