南阜

春の奇跡

「ったく、春樹、どこに買いに行ったんだよ?」
要は呆れたように言いながら廊下を歩く。
「わかんねぇ」
優はきょろきょろしながら、窓の外を見た。
「!」
優は驚いた。
「おぃ! 要! アレ!」
優は窓の外を指差した。
「春樹! アレは城嶋か?」
要は驚きながら外を見た。
「おいおい、ヤバくねぇか? 殴られそうじゃねぇか!」
優は走り出した。
「チッ!」
要も窓の外の様子を見て、舌打ちをし、走り出した。

 裏庭
「…はぁ、せーので行くぞ」
優は息を荒げながら言った。
「あぁ」要も息を荒げながら頷いた。
優と要が行こうとした時、城嶋の間抜けた声が。
「す、すまねぇ! 許してくれ! なんでもするから!」
どうやら、謝っているらしい。優と要は恐る恐る覗いてみた。
すると衝撃の光景が目に入った。城嶋と馬場、そのほかの仲間がボコボコで倒れている。
そして、倒れている奴らの前には、見覚えのある後ろ姿のあいつ。
「…はぁ…全く、アンタって人は…眼鏡かけてる人の顔面殴りますか、普通」
春樹はため息をつきながら、地面に落ちているレンズの割れた眼鏡を持ちあげた。
「…止めてくれ! これ以上は、もう何もしねぇから!」
馬場も少し震えた声で言った。
「…俺に何もしないじゃなくて、優と要には何もしないで欲しい」
春樹は冷静にゆっくりと、落ち着いた声で言った。
「格好つけてんじゃねぇぞ!」
城嶋の仲間のひとりが春樹を殴ろうとした。
「…俺は本気でお願いしてるんだけど?」と言い、春樹は睨みつけた。
「ひっ…!」仲間のひとりはビビって腰を抜かした。
「春樹!」思わず優と要は飛び出した。
「大丈夫か?」
春樹は優と要の声を聞いて振り返った。
「ん、大丈夫だよ」と春樹は優しく笑った。
「は、るき?」要は目を丸くして驚いた。
眼鏡を外した春樹はだるい感じの雰囲気は無く、寧ろ、凛とした、好青年に見えた。
「あぁ、ごめん、眼鏡ないと、俺じゃないみたい…かな?」
「…春樹! おまえ、眼鏡かけてないほうが、格好いいぞ?」
優は目を見開きながら言った。
「え? あぁ、ありがと」
春樹は殴られた頬を気にしながら笑った。
「おまえ、殴られたのか?」
優は春樹に訊いた。
「うん。おかげで、眼鏡割れた…」
春樹は困ったように笑った。
「つーかおまえ、喧嘩強いんだな!」
要は感激したように言った。
「…そーなの?」
春樹は眼鏡を見つめるように言った。
「てか、ありがとう、春樹」
要は嬉しそうに笑った。春樹は首を傾げ「なんで?」と訊いた。
優と要は顔を合わせてにこ―っと笑い、「なんでもな―い」と言った。
春樹から出た、あの言葉。『俺に何もしないじゃなくて、優と要には何もしないで欲しい』。
不器用だけど優しい彼なりの言葉。二人にとってそれは嬉しい言葉だった。

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