居間へ行くと霜が窓の外を物珍しげに眺めていた。
「なんかあったのか?」
「・・・お兄さんこの頃家の回り警察が多いと思わない?」
霜の隣に行って窓の外を見るとパトカーが巡回してる。
「ああ、外の電柱に行方不明の男の子の写真が載ってたな・・・。それじゃないか?」
「ふぅん・・・行方不明ね。」
霜がぼーっとしながらパトカーを眺めていた。
「・・・お前さ、あまり人間の姿で夜うろつくなよ?勘違いされんぞ。」
最悪の事態を想定しながら霜に警告しておく。
「そんなのいわれなくてもわかってる。
もしも勘違いで補導されても朝になったら蝶になるんだからそしたら逃げればいいんじゃない?」
「だけどその前に特殊な檻とかガラスケースに入れられたらどうすんだよ。」
「普通の男の子をガラスケースには入れないと思うよ。」
「そっか・・・。」
色々と考えすぎて頭がこんがらがってしまった。
これでは霜のほうがしっかりしているではないか・・・。
ここでびしっと大人っぽくきめようと、注意しようとしたのに上手くいかなかった自分が情けない。
「・・・心配してくれたんだ。」
隣で小さな声が聞こえて振り向くと霜ははにかむ様に微笑んでいった。
「ありがとう・・・。お兄さんって不器用だよね。」
「は・・・?」
何が言いたいのか解らず、眉根をよせて霜を見る。
霜は俺の顔を一瞥してから口を開いた。
「そんな難しいこととか言わなくても、ただ心配だからっていってくれればいいのに・・・」
「霜・・・」
思いをそのまま伝えろということか、と自分の中で霜の言った言葉を反復していると霜の声が耳に入ってきた。
「それとも格好付けたかったの?いくら言葉捜しても俺に言葉で勝てるはずないのにぃ〜。」
「なっ!一言多いぞ!!」
せっかく感心してやったのに真面目になったかと思えばすぐにふざける。
コロコロ変わる表情に振り回される俺の身にもなって欲しい。
「へへへ、お兄さんのお間抜けさん。」
「このやろう、燃やすぞコラッ!!」
冗談でライターをカチカチさせて霜を追いかけると、キャーと叫びながら霜は走り回る。
「僕儚いんだから暴力とかはしないで・・・ふぁ〜。」
気の抜けた欠伸が空間に響く。
それで俺たちはもう時刻が遅いことを知らされた。
「・・・寝るか。」
「・・・うん。」
目を擦りながら霜は毛布に包まる。
「なぁ、俺の寝るスペースも考えてくれないか?」
話しかけたが霜はもう眠ったのか返事が返ってこなかった。
「ッチ、面倒くさいな・・・。」
起こさないように優しく霜を抱き上げて端に寄せようとした。
抱き上げて思う、さっきいった儚いという言葉はどうやら本当のようだ。
少しでも力を入れたら折れそうなほど四肢が細い。
そうだ、霜は昆虫だった。
頭の中では解っているのだが、どうも外を歩いて見つける虫と目の前にいる霜を結び付けられなかった。
人間の姿をしているからかもしれないが、昆虫に変わりはない。
「そっか・・・お前ほんとうに儚いんだったな。」
もう一度自分の中で霜が昆虫だと確認する。
それと同時に浮かんできたこと、違和感。
季節は冬であるということ。
浮かんでくる考えを振り払うように俺は思い切り頭を振った。
避けられぬ運命を否定し続けていても、運命は変えられない。そんなこと解っている。解っているのに・・・・。
外はとめどなく雪が降り積もる。
それは誰にも止める事ができない